未来の私が残した餃子
依子は冷凍庫の奥で、餃子の袋を見つけた。
霜で白くなった袋に、油性ペンで「疲れた日の依子へ」と書いてある。二か月前、特売で二袋買ったときの自分の字だった。
給料日まで五日。冷蔵庫には大根の切れ端と、調味料しかない。帰りにスーパーへ寄るつもりだったが、改札を出たところで脚が止まり、そのまま家へ向かった。空腹より、買うものを考えるほうが重かった。
袋には餃子が八個残っている。一度に全部焼くのはもったいない。四個なら今日と明日で分けられる。依子はフライパンに四個並べ、残りを冷凍庫へ戻した。
水を入れて蓋をする。蒸気の音を聞きながら、スマホで銀行口座を確認した。残高は三千八百円。家賃は引き落とし済み。生きられない額ではないが、数字を見るたび、何かを失敗した気分になる。
フライパンの蓋を開ける。四個の餃子の間には、広い空白があった。
依子は冷凍庫をもう一度開けた。「疲れた日の依子へ」という文字が見える。今よりもっと疲れた日のために残すべきだろうか。給料日前より困る日が来るかもしれない。そう考え始めると、備えはいつまでたっても使えない。
残り四個もフライパンへ入れた。
先に焼けた餃子と色は揃わず、後から入れた分だけ皮が柔らかい。それでも八個が並ぶと、夕飯らしく見えた。大根の切れ端は薄く切り、塩でもんだ。
依子は床に座り、熱い餃子を頬張った。二か月前の自分は、給料日前まで想像していたわけではないだろう。ただ特売で買いすぎて、格好のいいことを書きたくなっただけかもしれない。
それでも、袋の文字に少し救われた。
過去の自分から受け取ったものを、さらに未来へ残し続ける必要はない。届け先は今夜だったのだ。
最後の一個まで食べ、空の袋を捨てる。依子は油性ペンだけを冷蔵庫の上へ戻した。また余裕のある日に、何かへ書くために。
食後、フライパンには焦げた羽根が少し残った。依子はそれを箸で剥がして食べた。未来のために整えておくより、今日おいしいところを残さないほうがいい夜もある。
大根の塩もみは半分残り、明日の一品になった。全部を食べ尽くしても、明日が空っぽになるわけではない。依子は空いた冷凍庫の奥を、しばらくそのままにしておくことにした。