欠勤届に押された王印

王都登記院の窓口が閉まったあと、千堂柚葉は俵木係長へ休暇願を差し出した。

「明日、父の葬儀があります。一日だけ忌引きをお願いします」

俵木は書類を読み、皆に見えるよう高く掲げた。

「忙しい時期に死ぬ家族を持つほうが悪い」

同僚たちが凍りつく。俵木は柚葉にだけ昼休みを与えず、書類を一枚でも戻されれば窓口の前で謝らせていた。今月は、彼女の椅子を〈新人には早い〉と倉庫へ運ばせ、立ったまま働かせている。

「規則では忌引きが認められています」

「規則を決めるのは現場の俺だ」

俵木は休暇願の〈却下〉へ丸をつけ、欄外に書き足した。

〈葬式より締切を優先できない者は不要〉

そして係長用の王印を押す。

赤い光が紙を走った。

「これで明日来なければ無断欠勤だ。三日分の賃金を引いて、反省文も書かせる」

柚葉が書類を受け取る前に、窓口脇の転送鏡が鳴った。

王国の忌引き申請は、却下に王印が使われた場合だけ、労務庁へ自動送付される。家族の死を利用した不当な退職強要を防ぐためだ。俵木自身、管理職研修でその規則へ署名していた。

鏡に労務監察官が映る。

『俵木係長。今の却下理由を確認します』

「本人が嘘をついている可能性がありまして」

『葬祭院の死亡届は、今朝すでに登記院へ届いています』

鏡の中に、正式な届出が表示される。受領処理をしたのは俵木の端末だった。彼は事実を知ったうえで、柚葉の申請を却下していた。

さらに王印は、押された前後の声も保存している。

『忙しい時期に死ぬ家族を持つほうが悪い』

『三日分の賃金を引いて、反省文も書かせる』

俵木が休暇願を破ろうとしたが、紙は王印の力で硬化している。

「厳しい言葉で仕事への責任を教えただけだ」

院長が奥の執務室から出てきた。労務庁から同時に届いた命令書を手にしている。

「家族を弔う一日を奪う権限は、誰にもない」

院長は柚葉の休暇願へ〈承認〉の印を押し、その隣で命令書を開いた。

「俵木修一。休暇妨害、賃金不正控除および継続的な職場いじめにより、本日付で解雇する」