死に戻り百回目の朝食
百回目の朝、エマはまた救えなかった。
王都を焼く魔力炉の爆発は止めた。仲間三人も生きている。だが避難先に選んだ西門が崩れ、街の記録庫が炎に呑まれた。人命は守れても、何百年分もの戸籍と歴史を失った。避難所では、自分の家の記録が消えたと泣く人もいた。エマは礼を言われるたび、その背後の炎から目を逸らした。
時間はもう戻らない。死に戻りの指輪が百回目で砕けたからだ。掌には銀色の破片と、今までになかった朝の冷たさだけが残った。
エマは夜明け前の宿で、三人へすべてを話した。同じ日を繰り返し、彼らの台詞も好みも、負う傷さえ知っていたこと。九十九回、都合のいい場所へ動かしてきたこと。最後にも選択を誤ったこと。
返事を聞く前に部屋へ戻り、荷物をまとめた。三人から受け取った品は、百回のどこで貰ったものか分からない。すべて机へ返し、宿代だけを置いた。
最初の人生でも、失敗したエマを家族は置いていった。百回分の信頼も、真実を知れば偽物になる。ラグナたちは朝食前に宿を出るだろう。階段の軋みが聞こえるたび、三人の出発だと思って息を止めた。
階下へ降りると、剣士ラグナが砕けた指輪を自分の剣帯へ結んでいた。
「預かる。次に無茶を始めたら、これを見せて止める」
「私に騙されていたのよ」
「それでも百回、俺は俺の判断で剣を抜いた」
魔術師ジークは食卓へ四枚の皿を並べていた。エマの席にだけ焦げたパンを置き、自分の成功した一枚と交換する。
「百回分の好みを知ってるなら、今度は俺の嫌いなものも覚えろ。焦げたパンだ」
神官ニコラスは、三人分あった帰郷切符を暖炉の上へ置いた。燃やさず、日付を一週間後へ書き換える。
「記録庫の復旧に残る。君の罰を軽くするためではない。僕らの町だからだ」
エマは鞄を抱えたまま動けなかった。
「また捨てられると思った」
ラグナは剣を壁へ預け、ジークは四つ目の椅子を引き、ニコラスは延期した切符を卓上へ並べた。誰も過去を許したとは言わない。今日から知り直すために、ただ席を立たなかった。
窓の外で、百一回目の朝日が昇る。
戻れない朝の食卓に、エマの帰る場所が三人分残っていた。