残高ゼロの夢

【学生活動応援アプリ〈ワンコイン〉運営】

18:31 天城志門

金融庁相談窓口から回答。ポイントでも、利益分配を約束した時点で問題になる可能性あり。全案件停止。

18:32 沖田奈都

可能性、で会社終わるんだ。

18:33 平良京介

終わるのは、もう残高がないから。

〈ワンコイン〉は、学生が五百円からサークルや研究企画へ資金を出し、成功すれば売上の一部をポイントで受け取れる仕組みだった。応援を投資に変える。それが三人の決まり文句だった。だが、失敗した企画の代表者へ返金を迫る利用者が現れ、大学は「学生間の金融トラブル」として連携を打ち切った。

18:37 奈都

最初は、写真部の展示費を集めたかっただけなのに。

18:38 志門

利回りを表示したら登録が増えた。

18:39 京介

増えるって分かって、三人とも止めなかった。

管理画面には、資金を集めた企画が並んでいた。屋上菜園、短編映画、ロケット模型。成功の緑より、中止の灰色が多い。夢という言葉を使うと、失敗の金額が小さく見えた。

18:44 京介

俺は実家の農園へ戻る。出資じゃなく、収穫した分だけ売る。

18:45 奈都

私はNPOの資金調達。寄付は寄付だと、最初から言う。

18:46 志門

証券会社のコンプライアンス。新しい企画に、できない理由を言う側。

18:47 奈都

一番起業家っぽかった志門が。

18:48 志門

できる理由だけ言う人間は、もう足りてる。

残った四百七十二円をどうするか、三人は十分揉めた。誰かへ返せば不公平、寄付すれば規約違反、手数料を払えば消える。最後に京介が、会社口座の解約手数料へ充てると決めた。

19:02 奈都

本当にゼロになるね。

19:03 京介

会社としては、きれい。

19:04 志門

きれいに終わる失敗なんてない。

志門が口座を閉じると、アプリの財布表示が〈0円〉になった。京介が退出し、奈都もチャットを離れる。

画面には、未達成の企画が一つだけ残った。〈三人で卒業後も会社を続ける/目標五十万円〉。支援額は千五百円、支援者は三人。

返金先のない五百円玉が三つ、凍結された財布の絵の中で、使われる未来を待っていた。