決勝戦を切断する
決勝ラウンド開始まで五分。鹿取周平は防音ブースで、ひび割れたマウスを机へ置いた。
四人のチームメイトはモニターから目を離さない。優勝賞金は一億円。無名だった四人はオンライン予選から勝ち上がり、今日まで給料も遠征費も分け合ってきた。勝てば全員が専業選手になれる。開始と同時に大会側の精密スキャンが走る。
「マクロを入れたのは俺だ」
キャプテンはエナジードリンクの蓋を鳴らした。
「勝ってから話せ」
カウントゼロ。警告画面が開き、視界が反転する。再び残り五分。缶の蓋が同じ音を立てた。
不正ツールを検出される前に、チーム全員が棄権ボタンを押せば試合は無効で終わる。それがループの終了条件だった。だが三人は、周平の告白を聞いても棄権しない。
二周目、使用ログを見せた。
「マクロを入れたのは俺だ」
「決勝では切ればいい」
三周目、予選の勝利も取り消されると説明した。
「今さら降りたらスポンサーが飛ぶ」と返された。
五周目、周平は自分だけ退出した。残った三人が試合を始め、スキャンでチーム全体が失格となり、また五分前へ戻った。
七周目、キャプテンが低く言う。
「おまえは謝って楽になりたいだけだ。俺たちに棄権を押させて」
周平は否定できなかった。決断の責任まで、仲間へ分けようとしていた。
八周目。
「マクロを入れたのは俺だ」
「だから勝って――」
「勝たせない」
周平は大会チャットへ管理者用の診断コマンドを打ち込んだ。自分の不正ログ、入力補正値、使用試合が、配信画面へ一斉表示される。規約上、管理領域への侵入は即時永久追放。チームの棄権票は不要だった。
ブースの扉がロックされ、審判が試合中止を宣告する。残り時間はゼロを越え、マイナス一秒、二秒と進んだ。
キャプテンは缶を投げた。
「俺たちまで終わった」
周平はひび割れたマウスを置いたまま、警備員に連れ出された。背後の大型画面から選手名が消える。
七年間磨いた反射速度だけが、もう押すべきボタンを持たなかった。