消えかけの魔導灯
イヴェット・ランカの魔導灯は、豆粒ほどにしか光らなかった。
能力測定の表示は【光量:1】。
鑑定科のジェルヴァ・クロムは、自分の眩しい光球を浮かべて笑った。
「暗がりすら照らせない灯に、何が見える」
イヴェットは古い手提げ灯を胸へ抱いた。彼女の光は明るくない。代わりに、偽物だけを薄くする。派手な幻ほど、彼女の灯のそばでは輪郭を失った。
公開測定で、講堂は巨大な幻影迷宮へ変わった。床には黄金の道が伸び、天井には出口を示す太陽が輝く。ジェルヴァは得意げに光球を増やし、黄金の道を照らした。
生徒たちが進むほど、道は鮮やかになる。
イヴェットは動かなかった。手提げ灯の弱い火だけが、足元の石床を淡く見せている。
「そちらは出口じゃない」
「負け惜しみか」
ジェルヴァが太陽へ手を伸ばした瞬間、黄金の道が口を開けた。光に育てられた幻獣が、生徒たちを飲み込もうとする。
イヴェットは灯の蓋を外した。
弱い光が床を這う。黄金は灰色へ戻り、太陽は染みになり、幻獣の牙は紙片のように剥がれた。最後に残ったのは、講堂の隅にある小さな木戸だった。
彼女はそこへ歩き、戸を開く。外の自然光が差し込んだ。
幻影が剥がれた講堂には、見たくないものも残った。ジェルヴァの胸の勲章は金ではなく塗装した木で、首席を示す推薦状には教師の署名を似せた跡があった。彼の眩光は、周囲だけでなく自分の虚飾まで濃く見せていた。
イヴェットはそれを皆の前へ掲げなかった。手提げ灯の蓋を半分閉じ、必要な真実だけを鑑定長へ示す。
「どうして全部暴かない」
ジェルヴァが震える声で問う。
「明るくすることと、見せ物にすることは違うから」
弱いと笑われた光は、暴く範囲を選べる光でもあった。偽物を消しながら、人まで焼かない。
迷宮で黄金の道を信じた生徒たちは、自分たちが光量を正しさと取り違えていたと気づく。豆粒ほどの灯の周りへ集まり、初めて足元の本物の石を見た。
新式鑑定鏡は、何を照らしたかではなく、どれだけ虚偽を消したかを映す。ジェルヴァの眩光は幻を濃くし、イヴェットの灯だけが真実へ道を作っていた。
【虚偽消去率:97%】
鑑定長は手提げ灯へ首席印を刻み、ジェルヴァを鏡の前へ立たせた。
【鑑定科・席次更新】
首席:イヴェット・ランカ
被鑑定対象:ジェルヴァ・クロム