消灯後、番号を一つ増やす

千景は検査結果の通知を、病室の暗闇で待っていた。

十代から心臓に持病がある。走れないわけでも、働けないわけでもない。ただ、診察日と薬と、突然の入院が生活の隅にずっと置かれている。普段は働けるが、数年ごとに入院する。篤志とは半年ほど前から会っているものの、病気のことを詳しく話していない。好きだと言えば、彼の生活に「心配する役目」を増やす気がして言えなかった。元気な日だけ会えば、篤志は自由なままでいられると考えていた。

消灯五分前、篤志が面会受付を走り抜けてきた。千景が検査入院すると知り、連絡を待ちきれなかったらしい。手には売店の水と、病室へ持ち込めない花の代わりに、小さな紙袋の飴があった。

「来なくてよかったのに」

「結果は?」

「一人で平気」

「それは結果じゃない」

看護師が「あと三分です」と告げ、カーテンを閉めた。ベッドと窓の間に立つ篤志、点滴につながれた千景。どちらも逃げられない。廊下の時計は面会終了を示し、遠くで配膳車の車輪が鳴っていた。篤志の息だけが、走ってきた速さをまだ残している。

「付き合ったら、入院のたびに呼ばれると思ってる?」

「呼ばなくても心配するでしょう」

「する。でも、それを選ぶのは俺じゃない?」

「一人で平気だから」

「平気と、寂しくないは別だよ」

スマートフォンが震えた。検査結果は《治療方針に変更なし》。安心より先に、篤志へ見せたいと思った。そのこと自体が、もう一人で完結していない証拠だった。胸の奥が静かにほどけた。

看護師がもう一度カーテンを開ける。

千景は画面を差し出し、三度目を言い直した。

「一人で平気。でも、一人を選びたいわけじゃない」

篤志は結果を読み、「分かった」とだけ言って病室を出た。

消灯後、千景は入院手続きアプリを開く。「病状を連絡してよい人」の空欄に篤志の番号を入力した。保存ボタンを押すと、彼から《家に着いたら連絡する》と届いた。

千景は通知音を消さず、枕元へスマートフォンを伏せずに置いた。