消灯後の番号
録音機の赤灯が消えた途端、長塚仁は拳銃の番号を口にした。
「K三一七八四。あんたの先輩が、俺の鞄へ入れた銃だ」
国枝澄玲警部補は身動きしなかった。長塚は発砲事件の容疑者で、逮捕時の鞄から使用銃が見つかっている。上司の緒方警視は「雑談で口を軽くしろ」と録音停止を命じたばかりだった。
「なぜ番号を知っているの」
「刑事が見せた。『これで一生出られない』ってな」
「本当に鞄へ入れられたなら、番号を見る余裕はない」
「だから、その刑事は俺に見せてから入れた。怖がらせるためだ」
澄玲は録音開始ボタンへ指を伸ばした。
「点けたら黙る」と長塚が言う。
「なぜ」
「銃を仕込んだ話が記録に残れば、俺は留置場で事故に遭う。消えてる時だけ話す」
心理戦だった。録音しなければ証拠にならない。録音すれば口を閉ざす。緒方は監視室で、長塚が発砲を認めた部分だけを待っている。
「発砲したのはあなた?」
「それは点けてから聞け」
澄玲が赤灯を点けると、長塚は「撃っていない」と答えた。消すと、また番号を繰り返した。K三一七八四。間違いなく押収銃の刻印だ。
端末に緒方から届く。
――番号を知るのは犯人だからだ。自白へ詰めろ。
だが、押収記録の写真には不自然な点があった。鞄から出した直後とされる銃の安全装置に、白い封印粉が付いている。封印粉は署の銃器庫で保管品に振るものだ。さらに番号K三一七八四は、三か月前まで警察の訓練用保管リストに載り、廃棄済みと処理されていた。廃棄決裁者は緒方。
「俺が撃ったかどうかと、その銃を警察が持っていたかは別だ」と長塚が言った。
澄玲は頷いた。彼の否認を信じたのではない。混ぜてはならない二つを、緒方が一つにしていると分かったのだ。
彼女は赤灯を点けたまま、銃器庫台帳の番号を読み上げた。長塚は何も答えない。
澄玲は押収銃を机上へ運ばせ、刻印と台帳を一枚の写真に収めた。緒方が中止を命じる声ごと記録し、その写真を証拠改変申告書へ添付した。