火刑台の子守歌

火刑台に縛られた少年セフは、まだ泣いていなかった。

母ルメイラが群衆をかき分けると、足元の灰から悪魔グリザが顔を出した。

「歌え。子守歌の一節を炎に変えるたび、おまえの寿命を一年もらう」

契約はそれだけだった。

司祭が松明を掲げる。セフは呪いで家畜を殺したとされたが、本当は領主の毒入り飼料を見つけただけだ。

ルメイラは、幼い息子を眠らせた歌を歌い始めた。

第一節が火刑台の縄を焼いた。彼女の髪に白いものが一本混じる。

第二節で足枷が溶ける。目尻へ皺が刻まれた。

第三節の炎は松明を持つ司祭の袖へ移り、男は慌てて火を捨てる。

衛兵が槍を向けた。

ルメイラは歌い続けた。

十節で二十九歳から三十九歳へ。二十節で背が少し曲がり、声が低くなる。炎は槍の穂を包み、鉄だけを赤く溶かした。

「母さん、もういい!」

セフが叫ぶ。

彼女は歌を止めない。火刑台の周囲には油が撒かれ、逃げ道を塞ぐ柵がある。少年を群衆の外へ出すまで、炎の道が必要だった。

三十節。歯が抜け、手に老人の斑点が浮く。

三十五節で柵が焼け落ちた。

セフが駆け出す。だが領主の弓兵が屋根に現れ、少年へ矢を向けた。

残る歌詞は、最後に眠りを約束する五節だった。

ルメイラは息を吸った。

四十節目まで一度も途切れず歌う。

炎が夜空へ大きな腕となって伸び、弓と矢筒を焼き、領主の旗を灰にした。隠されていた毒飼料の袋まで倉から引きずり出し、印章を群衆の前へ転がす。

領主は捕らえられ、セフは自由になった。

火が消えた場所に、腰の曲がった老婆が膝をついている。白髪は地面まで垂れ、指は枯れ枝のようだった。

セフが駆け寄る。

「母さん」

老婆は顔を上げた。耳が遠く、声を聞き取れない。それでも少年の頬へ触れようとする。

その手は途中で止まった。年齢に耐えられなかった目は白く濁り、息子の顔を映さない。

それでも指が頬の小さな傷を探り当てた。幼いころ、転んだセフを抱き上げたときから残る傷だった。

「セフ」

名を呼ぶ声は枯れていたが、息子には届いた。

少年は老婆の手を両手で包んだ。数分前まで若かった母の指は、彼の指より細く冷たい。

グリザが灰の中で笑う。

「一曲で四十年だ。安い子守歌ではなかったな」

ルメイラは最後の一節を歌おうとした。けれど残った声は音にならず、老いた息だけが息子の額を撫でた。

火刑台を降りた二人を見て、人々は祖母と孫のようだと道を開けた。

セフだけが、その白髪の老婆を母と呼び続けた。