火山の怒鳴り声は避難図になる

火山町の観測員ドレイグは、山と話す男として酒場の笑い者だった。

小石の跳ね方、煙の途切れ、地鳴りの間隔を記録しても、領主は「噴火は祈祷師が止める」と予算を削った。

【固有スキル《非人語翻訳》:人ならぬ発信者が示す連続した表現を、人が実行できる命令文へ置き換える】

祭りの最中、山腹が割れた。祈祷師の結界は一息で砕け、火砕流が町へ向かう。

領主は財宝を馬車へ積むため、北門を閉鎖した。民には広場で祈れと命じ、自分だけ裏門へ走る。

ドレイグは地面へ両手を置いた。

地鳴りは怒鳴り声ではない。圧力、温度、地下水、割れ目が同時に送る、巨大な状況報告だ。

黒い灰が町の上で文字へ変わる。

《北門を開け。三列で東の尾根へ。川床へ降りるな。七分後、西斜面が崩れる》

民は一瞬迷ったが、直後に西の見張り塔が山鳴りどおり傾いた。兵士たちは領主命令を無視し、北門の鎖を切る。

ドレイグは走りながら翻訳を続けた。

《老人を先に。荷車を捨てろ。五分後、第二波》

灰の命令文が道の上へ矢印として並び、町全体を安全な尾根へ導く。

領主の財宝馬車だけが重すぎて裏道で動けなくなった。

「私も通せ!」

地面から最後の文が浮かぶ。

《その場所は三十秒後に陥没する》

領主は金箱を捨てて這い出し、民の列の最後へしがみついた。直後、馬車と屋敷の権利書が赤い亀裂へ沈む。

火砕流は空になった町を呑んだが、尾根の人数は一人も欠けていなかった。

尾根へ着いた領主は、自分を先頭へ通せと叫んだ。しかし灰の文字には《老人を先に、子を抱く者を中央に、歩ける者は最後》とある。民はその命令だけを守り、領主には足を痛めた少年を背負わせた。財宝を捨てて空いた両手が、初めて誰かの役に立つ。

祈祷師は噴火を止めたと名乗れず、砕けた杖を下ろした。町を救ったのは山を黙らせる力ではない。山が告げ続けていた危険を、聞ける形へした男だった。

山の轟音が遠のくと同時に、ドレイグの観測札が輝いた。

【職業《火山観測員》が上位職《天災通訳官》へ書き換わりました】