災厄の空腹だけをしまう
王都食料庫の計量係ウルサは、空箱ばかり数える女と馬鹿にされていた。
彼女の収納は品物ではなく、容器の余った部分を抜き取る。
【固有スキル《空隙収納》:容器内部に残る空き容量を、一つの内容物として格納する】
半分しか入っていない箱から空隙をしまえば、箱は中身ぴったりの大きさに縮む。運送には少し便利だが、食料そのものは増えない。倉庫長は横流しで空になった樽をウルサへ見せ、「得意の空気を数えろ」と笑った。
その夜、封印庫から《飽くなき胃袋》が逃げ出した。
古代王が兵糧攻めのために作った災厄で、口にした物を体内倉庫へ送る魔獣だ。石畳、家畜、武器、城壁まで飲み込み、食べるほど巨体になる。討伐隊の攻撃も丸ごと吸われ、王城へ向かう頃には丘ほど膨らんでいた。
倉庫長は横流しの証拠を燃やし、ウルサを魔獣の前へ突き出した。
「食料庫が空なのは、こいつが盗んだからだ!」
民衆の視線が集まる。
ウルサは言い返さず、災厄の腹を鑑定した。収納容量は無限。格納済みの品は王都三分の一。だが、無限というのは中身が無限なのではない。どれだけ食べても残り続ける「空き」が無限なのだ。
敵は巨大な胃袋という容器。
ならば、その最も多い内容物は空腹だった。
ウルサは開いた口へ向けて手を伸ばし、体内倉庫に残る全空き容量を一件として指定した。
発動は一度だけ。
災厄の咆哮が、満腹のげっぷへ変わった。
無限の空隙を失った体内倉庫は一瞬で満杯となり、もう砂粒一つ飲み込めない。収まりきらなくなった城壁、家畜、武器、家々が壊れる前の姿で順番に吐き戻される。最後には倉庫長が隠した王家の小麦袋まで、横流し先の商印付きで山になった。王都には朝食の匂いが戻る。
民衆はウルサではなく倉庫長を囲んだ。
監査官が小麦袋の印を確認し、彼へ拘束輪を掛ける。満腹になった災厄が子犬ほどに縮む横で、ウルサの計量札が黄金の秤へ変わった。
【職業が《食料庫計量係》から《欠乏封蔵官》へ書き換わりました】