無音のスマートペン

校内奨学金試験の途中、星野宮奏芽のペンが青く点滅した。

高瀬川紘希がすぐ手を挙げる。

「先生、そのペン、通信中じゃないですか」

奏芽が使っていたのは、筆記過程を保存する学校貸与のスマートペンだった。答案の考え方を後から指導へ生かすため、選抜クラス全員に配られている。

監督教師が端末を確認すると、試験範囲の公式集がペンの保存領域に入っていた。

「持ち込み資料ですね」

奏芽は、前日の授業後に初期化したはずだと答えた。だが紘希は、休み時間に奏芽がペンを操作していたと証言した。答案は回収され、奨学金審査から外す手続きが始まる。

奏芽は充電ケースを開いた。

「同期履歴を見てください」

スマートペンは、教材を追加した端末と時刻を自動記録する。公式集が転送されたのは試験開始十三分前。接続元は奏芽のタブレットではなく、監督教師の端末だった。

教師は、全員分を更新した際の事故だと言った。

情報担当が一斉配信の記録を調べる。更新対象は奏芽のペン一台だけ。しかもペンの青い点滅は通信ではなく、容量不足を知らせる警告だった。試験中は機内モードで、保存された公式集を開く操作も一度もない。

さらにペンには、机へ置かれていた間の周囲音を記録する機能があった。答案振り返り用として、試験前まで録音が許可されている。停止直前の音声に、監督教師と紘希の会話が入っていた。

『星野宮のペンへ入れました』

『点滅したら僕が指摘します。これで奨学金は空きますね』

紘希の声だった。

教室前方のカメラにも、奏芽が席を離れた隙に教師が充電ケースを開ける姿が残る。紘希はその横で、廊下を見張っていた。

奨学金委員長は奏芽の失格処理を取り消し、紘希を審査対象から除外した。監督教師には自宅待機が命じられる。奏芽の答案は別室で採点され、最高点だった。

委員長がスマートペンを初期化し、奏芽へ返した。

青いランプが白へ変わり、画面に〈保存データなし〉と表示される。

その瞬間、消えたのは不正な公式集だけで、二人が残した声と処分は、もう誰にも初期化できなくなった。