焦げた蝋燭が偽りの夜を燃やす

太陽が沈んでから、十二日が過ぎた。

夜獣王は討たれたのに、王都を覆う黒い天蓋だけが残っている。畑は凍り、時計塔は夜半で止まり、灯油も底をついた。大魔術師たちは人工太陽を浮かべたが、黒い空が光を食べ、数秒で消した。

夜警のユノは、討伐に参加した者へ一度だけ許された限定ドロップ箱を開けた。

中には、半分まで焦げた細い蝋燭が一本。

【コモン:燃え残りの蝋燭】

【暗い場所で火を灯せます】

「十二日分の夜に、半刻の明かりか」

誰かが吐き捨てた。

ユノは蝋燭を時計塔の頂上へ運んだ。黒い天蓋は本物の夜ではない。夜獣王が「朝は来ない」と都へ信じ込ませた、偽りの一夜だ。ならば燃やすべきは蝋ではなく、その夜そのものだった。

最後の火打ち石を一度鳴らす。

焦げた芯に、豆粒ほどの橙色が灯る。

風は止まっているのに、炎が大きく揺れた。周囲の闇が布のように芯へ吸われ、黒い天蓋の端から燃え始める。火は家にも人にも移らず、「十二日目の夜」だけを青い炎に変えていった。

星のない空へ亀裂が走る。

最初の一筋が差したとき、広場の誰かが目を覆った。忘れかけていた朝日は眩しく、屋根の霜を一瞬で水滴へ変える。時計塔の針が動き、止まっていた鐘が十三日目の朝を告げた。

黒い天蓋が燃えるにつれ、都の窓が一枚ずつ開いた。眠れずにいた人々が外へ顔を出し、光の色を確かめる。パン屋は冷え切った窯へ火を入れ、農夫は凍った苗床の覆いを外した。

十二日間、広場で配られていた「本日も夜」と書かれた札は、朝日に触れるとただの白紙になった。誰かの作った終わらない夜より、皆が待っていた朝の方が強かった。

ユノは蝋燭を吹き消さなかった。燃やす偽りがなくなると、炎は自分で静かに消えた。蝋は一滴も減っていない。

東の空へ本物の太陽が昇る。その光を受け、焦げ跡の下から金色の芯が現れた。

【偽装時間領域「終わらない夜」を完全焼却】

【最高位SSS《黎明残火・朝を取り戻す蝋燭》――世界初点火を記録】