片方ずつのローファー

卒業式の日、椿原由芽と妃奈は、片方ずつ違うローファーで駅まで歩いた。

式後の校門に、妃奈の父親が立っていた。腕を組み、笑っていなかった。妃奈は卒業証書の筒ではなく、小さな旅行鞄を持っていた。朝、体育倉庫へ隠しておいたものだ。

今夜から、遠方の叔母の家で暮らす。そう決めたのは妃奈自身だった。父親の機嫌を読んで夕食の時間を変え、鍵の音で部屋の明かりを消す生活を、卒業と一緒に終わらせるつもりだった。

「車に乗れ」

父親の声が聞こえた瞬間、妃奈は走った。

由芽も追った。校門を抜け、横断歩道を渡り、駅へ続く坂を下る。途中で乾いた音がして、妃奈の右のローファーの底が剥がれた。妃奈はつまずき、膝をついた。

「もういい」

息を切らしながら、妃奈が言った。

「何が」

「電車、間に合わない」

由芽は自分の右足のローファーを脱ぎ、妃奈へ押しつけた。二人は同じサイズだった。妃奈の壊れた靴を自分が履くと、底が一歩ごとに口を開けた。

「返せないかも」

「返さなくていい。左も交換しよう」

「両方くれたら、由芽が帰れないでしょ」

結局、二人は片方だけ交換した。妃奈は右足に由芽の靴、左足に自分の靴。由芽はその逆。黒は同じでも、艶とつま先の形が違う。走れば歩幅がずれた。

駅の階段を上ると、発車ベルが鳴っていた。妃奈は改札を抜け、振り返った。父親の姿はまだ見えない。

「由芽」

「行って」

「卒業、おめでとう」

「妃奈も」

妃奈は学校を卒業しただけではない。由芽も、その勇気を自分のもののように語るつもりはなかった。ただ、閉まりかけた扉へ片方の靴を滑り込ませたのは、確かに妃奈自身だった。

電車が出たあと、由芽は底の剥がれた靴で家まで歩いた。一歩ごとに、ぱたん、ぱたんと間の抜けた音がした。泣きながら、少し笑った。

十年後、由芽は長く勤めた会社を辞める朝、靴箱の奥から左右の違う一足を見つけた。妃奈とは今も年に数度連絡を取るが、靴を返そうと話したことはない。

由芽は古い靴を箱へ戻し、新しい革靴を履く。

誰かのように強くなる必要はない。借りた勇気を返す必要もない。自分の足に合うものを、自分で選び直せばいい。

玄関を出ると、新しい靴は左右同じ音を立てた。由芽はその音で、今日の歩幅を決めた。