猫番二十七のリゾット
保護猫カフェの閉店後、佐和はレジ締めをしながらクラッカーをかじっていた。すると厨房から、鶏肉のリゾットが出てきた。人間用の夕食メニューは予約制で、佐和は頼んでいない。
作れそうなのは提携獣医の田之倉、同僚の槇、今日、元保護猫を連れて遊びに来た柳瀬の三人だった。
リゾットにはチーズが使われていない。人参は「2」と「7」の形に抜かれている。会計済みの札には、名前の代わりに肉球の判があった。
二十七番は、半年前までここにいた老猫の管理番号だ。柳瀬が家族として迎えた猫でもある。
「柳瀬さんからですね」
槇が壁の小さな掲示を指した。店には、譲渡を受けた人が次に来たとき、世話をしたスタッフへ食事を贈れる「保護主さまへ」という前払いメニューがある。肉球の判だけで届け、送り主の名前は出さない決まりだ。
柳瀬は入口でキャリーを抱え、困った顔をした。
「佐和さん、あの子がいなくなったあと寂しそうだったから。連れて帰った私がお礼を言うのは、傷に塩かなって」
佐和は首を横に振った。寂しかったのは本当だ。でも、二十七番が暖房の前で眠る写真を見るたび、あの空いたケージが正しい空席だと思えた。
チーズ抜きにしたのは、以前、佐和が乳製品で具合を悪くしたのを柳瀬が覚えていたから。人参の数字は田之倉が型紙を作り、槇が抜いた。三人とも、本人に見つからないよう真剣だったらしい。
二十七番は、人の膝に乗らない猫だった。譲渡の日だけ佐和の制服の裾へ爪をかけ、離れなかった。その感触が忘れられず、幸せな家へ送り出したはずなのに、自分が見捨てたような夜もあった。柳瀬は、その複雑さを無理に『良かった』へ変えず、名前のない食事として置いた。佐和が食べるかどうかまで選べる距離が、何より優しかった。
柳瀬は、佐和が笑うまでキャリーの扉を開けなかった。再会を喜ぶことまで押しつけない、その待ち方も二十七番と暮らして覚えたのかもしれない。
キャリーの中から、低い喉の音が聞こえた。
佐和はリゾットを一口食べ、扉越しに言う。
「二十七番、ちゃんと家の味がするよ」