王を捧げない封印式
「同じ音の言葉から正しい意味を一つ選べる? 辞書を引けば済む」
神殿法院の試験で、パルナは無能とされた。
【能力:《同音選び》――同じ発音を持つ複数の語から、話者が意図した意味を一日に一度だけ理解する】
音を変えることも、文章全体を訳すこともできない。彼女は地下祭壇の写経係へ回された。
地獄門が開いた夜、祭壇の石板に古い神託が浮かんだ。
――門を閉じるには、王をササゲヨ。
現代語で「ササゲヨ」は「捧げよ」。王を生贄にせよという意味だと、大神官たちは判断した。魔物の腕はすでに門から伸び、王都の石畳を焦がしている。
老王オルダクは自ら祭壇へ上がった。
「一人で国が残るなら安い」
王の血を受ける刃が下ろされる。
パルナは、石板の脇に彫られた古い絵を見ていた。王が殺される図ではない。冠をかぶった人物が、両腕で天井を押し上げている。古代語では「捧げる」と「支える」が同じ発音だった。
《同音選び》。
神託が意図したのは「王を捧げよ」ではない。
「王を、支えよ」です。
彼女は刃を止め、祭壇の下を指した。そこには、折れた一本の石柱がある。地獄門は祭壇の重みで閉じる仕組みだが、柱が折れて傾いたため開いていた。古代の王は生贄ではなく、門を押さえる中央支柱の名だった。
「王」と刻まれた柱を立て直せという命令だったのだ。
兵が石柱を起こそうとしても重すぎる。老王は祭壇から降り、冠を脱いで柱の下へ肩を入れた。
「王を支えるのは、王だけではない」
近衛、神官、市民が次々に加わる。百人の肩で石柱が元の穴へ戻る。
祭壇が水平になり、地獄門は魔物の腕を挟んで閉じた。黒い炎も地下へ消える。老王は血を一滴も流さず、柱の前に立っていた。
試験官が「絵を見れば分かった」と言う。
オルダクは生贄の刃を折り、その破片を男の辞書へ挟んだ。
「辞書の最初の意味だけで王を殺すところだった」
老王は神殿の白印をパルナへ渡す。
「次に神が同じ音で命じたら、誰を殺す前におまえが意味を選べ」