王印を売った徴税官
北領の徴税官ヘルムートは、商人たちへ偽の免税証を売っていた。
「金貨百枚で五年間、税を払わずに済む。王都の許可は私が取ってある」
証書には本物そっくりの王印が押されている。だが検問で無効と判定されれば、商人だけが脱税犯として捕まる仕組みだった。
すでに三人が偽証書を信じて投獄され、店と荷馬車を没収されている。ヘルムートは家族から助命金まで取り、「王都への口利き料」として再び懐へ入れていた。
書記のアステルが抗議すると、ヘルムートは免税証を彼女の机へ叩きつけた。
「印を作ったのはお前だと言えば済む。平民書記と王国徴税官、裁判官がどちらを信じると思う?」
その日訪れた薬商は、投獄された兄を救うため、店の在庫をすべて売って百枚を作ってきた。ヘルムートは金貨を一枚ずつ噛んで確かめ、足りない一枚の代わりに薬商の結婚指輪まで奪った。そして裏帳簿へ《王印使用料》と記入した。さらに偽証書の発行者欄へ、自分の署名を大きく書く。
「署名があるから客は安心する。愚か者ほど紙を信じる」
アステルは薬商へ控えを渡し、証書を封筒へ戻した。封筒の表には、受領金額とヘルムートの署名がそのまま残っている。
翌日、巡察中の王弟が税務所を訪れた。ヘルムートは、アステルが偽印を作って商人を騙したと告発する。
王弟は証書の王印を指でなぞった。王家の印章は押すたびに金粉の粒が固有の星座を描く。偽印には同じ欠けがあり、その欠けは税務所の備品庫にある模造印と一致した。
備品庫の鍵を開けた記録は、ヘルムートの指輪だけを示していた。
彼は、書記に指輪を盗まれたと言った。
そこで裏帳簿が開かれる。《王印使用料》の各行には彼の署名。商人との面談を記録する徴税水晶からは、声も流れた。
――印を作ったのはお前だと言えば済む。
――愚か者ほど紙を信じる。
ヘルムートが王弟へ跪く。王弟は赦免状ではなく、黒縁の王命を広げた。
「徴税官ヘルムート。官位剥奪、および王印偽造と詐欺の罪による逮捕を命じる」