王道を消した横風

国王ハーディムの親征軍は、都を出て最初の砂丘で道を失った。

晴天だった。ところが横風が一度吹くと、砂が兵の顔へ叩きつけられ、目を開けられない。先頭の旗が消え、荷車の轍も数秒で埋まる。軍は半里も進めず、同じ砂丘の周りを回った。

将軍は天幕の中で地図を握りつぶした。

「砂漠の民が、なぜ風一つに負ける!」

案内人は口元の布を押さえながら答えた。

「これまではラザハ殿が、街道の両側へ風を滑らせていました」

ラザハの結界は砂嵐を止める巨大な壁ではない。地面すれすれに二枚の曲面を張り、横風を上へ逃がす。砂は路面へ落ちず、轍が残る。平時には誰も風を意識しないため、王は「敵の矢も防げぬ道端の術」と彼を国外へ追放した。

その日の軍は、敵に会わず都へ引き返した。凱旋門を出た兵が、夕方には砂まみれで同じ門をくぐった。

一方ラザハは、小さなオアシスの市場を開いていた。町長メルサが布を外し、風の中で普通に目を開ける。

「百年ぶりに、砂嵐の日でも店を出せた」

「市場の上へ風を逃がしています。井戸へ砂が入る量も減るでしょう」

「軍のための一本道より、皆が歩ける広場を守ってくれた。交易路の管理者になってほしい」

夕暮れには、閉ざされていた三つの隊商が広場へ到着し、ラザハへ最初の通行証を差し出した。

そこへ王の白馬が来た。勅使は砂を吐きながら巻物を開く。

「陛下は追放を取り消された。明朝の再出陣までに王道を復旧せよ」

ラザハはオアシスの通行証へ自分の印を押した。

勅使は再出陣の時刻ばかり気にし、砂に倒れた兵の数を知らなかった。ラザハは王道を守っていた頃、風向きが危険な日は進軍延期を何度も提案した。しかし王は、結界師がいるのに止まるのは弱さだと退けた。オアシスでは逆に、メルサが術の限界を町の掲示板へ大きく書くと言った。越えられない嵐の日は、皆で市場を閉じる。その判断を恥としない。ラザハは、道を開け続ける奴隷ではなく、道を閉じる責任も持てる仕事を選んだ。

「王国との契約は、追放宣告をもって終了しています」