甘い根を煮る夜

菓子工房の職人ザビーネは、砂糖を盗んだ罪を着せられて追放された。

本当の盗人は親方の息子だったが、身寄りのない彼女に味方はいなかった。

辺境で渡されたのは、白い石の混じる畑と、甘根菜の種が一袋だけだった。

春には芽を鳥に食べられ、夏には葉が病んだ。ザビーネは菓子の温度を見る目で土の乾きを読み、朝夕に水を分けた。砂糖の袋を数えるだけだった手が、いつしか葉の張りで天気を知るようになった。

秋の夕方。

最初の一列で、葉が地面へ寝始めていた。

ザビーネは試しに一本を掴み、腰を落として引いた。

ずぼ、と土が鳴り、太い白根が姿を現した。先は二つに割れ、泥だらけで、菓子工房の銀皿には似合わない。

それでも切り口を少し舐めると、青い苦みの奥に確かな甘さがあった。

一列から六本。

今日はそれ以上抜かない。畑を空にするより、最初の甘さを確かめるほうが大事だった。

井戸水で洗い、薄切りにして鍋へ入れる。

薪火でゆっくり煮ると、白い根から透明な汁が出た。布で漉し、さらに煮詰める。

灰汁をすくうたび、蒸気が頬を濡らした。焦がさないよう木匙で底をなぞり続ける。工房では親方だけが許された仕上げの作業を、今は誰にも止められず自分の鍋で行っている。

夕日が落ちるころ、鍋底には琥珀色の蜜がとろりと残った。

そこへ王都の菓子工房から使者が来た。

「砂糖蔵の横流しが発覚した。親方は捕らえられた。戻れば主任職を用意する」

使者は詫び状と雇用契約を並べた。

ザビーネは契約を見ず、小麦粉と卵を混ぜた。

鉄板へ丸く落とすと、生地がふくらみ、縁で小さな泡が弾ける。

焼けた薄菓子へ、初めての蜜を一筋垂らした。甘い湯気が立ち、焦げた小麦の香りと混ざる。

一口食べる。

王都の精製糖ほど鋭くない。土と草の気配を少し残した、柔らかな甘さだった。

その不完全さが、妙に嬉しい。

「契約へ署名を」

「今は手が蜜で汚れています」

「拭けばよいでしょう」

「もったいないので、先に舐めます」

指先の蜜まで味わい、ザビーネは二枚目を焼いた。

使者の分ではない。明日の朝の自分の分だ。

詫び状の封蝋は固いまま、琥珀の蜜だけが温かく流れていた。

彼女を甘い場所から追い出した者たちより先に、辺境の土が、最初の菓子を正直に返してくれた。