白く凍った研究費

王立魔法学院の全研究室で、金庫が同時に白く凍った。

火炎科の触媒も、治癒科の薬草も、天文塔の観測石も取り出せない。監査用の封印魔法だった。

王室監査官は一枚の領収書を掲げる。

「疫病治療研究の指定助成金で、学長歓迎宴の葡萄酒を購入しています」

金貨三枚の誤用により、学院全体の助成金が調査終了まで凍結された。翌朝予定されていた治療実験は中止。培養中の希少菌は、触媒を補充できず黒く枯れた。

その菌は、十年に一度だけ咲く月花から採取したものだった。次の培養機会まで十年。金貨三枚の葡萄酒が、治療法完成の可能性を十年遠ざけた。

学長は自費で触媒を買うと言ったが、封印中は私費の持ち込みも証拠改変と見なされる。教授たちは宴会で使った銀杯を机へ積み、これで失った時間を買い戻せるのかと迫った。

経理官ザフィールは、研究目的ごとに帳簿と金庫を分け、指定金を一枚も宴会へ回さなかった。学長は「同じ王国の金に違いはない」と苛立ち、前日、彼を辺境へ追放したばかりだった。

教授たちは学長室へ押しかけた。歓迎宴の豪華な銀杯が、廊下で誰かに蹴られて転がる。

その頃ザフィールは、辺境の小さな術学校で監査官を迎えていた。生徒用、研究用、寄付金用の箱が明確に分かれ、領収書も一枚ずつ対応している。

監査晶は緑に輝いた。最高評価だった。

校長は、穴の空いた屋根の修繕助成が即日認められた通知を見て涙ぐむ。

その晩に雨が降ったが、生徒たちは移した机の下で授業を続けた。修繕工事は翌朝から始まる。指定された金を指定された未来へ届けたことで、辺境校は王立学院より先に次の研究日を決められた。

「あなたが守ったのは帳簿ではなく、この子たちが雨に濡れず学べる場所です」

午後、王立学院の転移鏡に学長の顔が映った。

『処分は撤回する。すぐ戻って封印を解かせろ。副学長の席を用意する』

ザフィールは鏡の向こうへ、追放命令書を映して見せた。

「封印を解くのは監査官です。私の契約は、この命令書の日付で終了しています」