白紙から出た三千八十枚
洪水で三つの村が沈み、救援には金貨三千枚が必要だった。
だが王宮の各部署は、予算に余りは一枚もないと主張した。前年と同じ額をそのまま要求し、救援は来月まで待てと言う。
「去年あったから、今年も要る。その前提を捨てます」
王宮の門外には、泥だらけの村人が救援を待っていた。濡れた毛布に包まれた子どもの咳が、会議室まで聞こえる。それでも長官たちは前年の予算冊子を盾のように積み、「規則だから動かせない」と繰り返した。霞希はその冊子を一冊も開かなかった。
白紙を渡された長官たちは、初めて自分の費目を言葉にしなければならなくなった。死んだ竜へ誰が餌をやるのか。空の舞踏団は何回公演するのか。答えのない沈黙が、そのまま零の金額になる。霞希は削減ではなく、必要性のない項目を最初から存在させなかった。だから三千八十枚は、どこかから奪った金ではなく、幻へ払うはずだった金として机に残った。
霞希は前世で予算編成をしていた。前年の帳簿を閉じ、真っ白な紙を各長官へ一枚ずつ配った。
今年、何をするのか。何枚で、何が得られるのか。書けない項目は零から始める。
最初に消えたのは、十年前に死んだ王竜の飼料費九百枚だった。次に、空位の第二舞踏団の衣装費七百枚。夏に行わない雪迎え祭の氷輸送費八百枚。誰も使わない西離宮の銀食器磨き、六百八十枚。
合計、三千八十枚。
長官たちは慣例だ、格式だと叫んだ。霞希は救援名簿を隣へ置く。必要な船二十艘、干し肉六千食、薬箱百。合計三千枚。残り八十枚で運び手の給金も払える。
王妃は二枚の紙を見比べた。
片方には、死んだ竜と空の舞踏団。もう片方には、生きて救助を待つ四千人。
反対していた長官の印章が一つずつ回収された。霞希の白紙から作った予算には、前年という言葉が一度もない。
王妃は救援命令書へ金印を押す。中庭で待っていた船頭たちへ、金貨三千八十枚の支払いがその場で始まった。
最初の船が門を出る直前、王妃は霞希へ予算局長の鍵を渡した。
「来年も白紙から始めよ。王国の予算をお前に任せる」