百枚の紫蘇と三十個の餃子

 宇多川ゆらの呼び鈴を、隣人の蓮司が透明な袋を抱えて鳴らした。

「祖母が紫蘇を百枚送ってきた」

「数えたんですか」

「袋に書いてある」

 実際には百二十三枚あった。

 ゆらは書店員で、蓮司は深夜ラジオの構成作家。生活時間がずれているため、顔を合わせても会釈だけだった。どちらも一人暮らしで、紫蘇を一度に使う料理を知らない。

「餃子に入れれば減りそう」

「何個作る?」

「百二十三個以外で」

 二人は豚挽肉、白菜、チーズを買い足した。餃子の皮へ紫蘇を半枚ずつ敷き、肉だねと小さなチーズを包む。

 蓮司は話しながら包むので、口はよく動くが手は遅い。ゆらは黙って包むのが速い。

「本屋さんって、静かな人ばかり?」

「ラジオの人って、ずっと喋るんですか」

「放送中は出演者が。僕は紙に書く」

「今は放送外だから静かにしてください」

 そう言いながら、ゆらは笑っていた。

 三十個を焼く頃には、台所の皿が足りなくなった。水を注いで蓋をすると、紫蘇の青い香りが蒸気に混じる。仕上げに胡麻油を垂らし、底をかりっと焼いた。

 一つ割ると、溶けたチーズが肉汁と一緒に流れた。紫蘇の香りが脂を軽くし、何個でも食べられそうだった。酢だけ、辣油入り、塩と、たれを替えるたびに同じ餃子が別の顔を見せた。

「帰宅してから、誰とも話さない日が多くて」

 ゆらが言う。

「僕は声を使う仕事の人に囲まれてるけど、自分の話はしない」

「今、ずいぶん話してます」

「紫蘇のせいかな」

「百二十三枚ありますから」

 食べながら、残りの葉を醤油漬けにし、さらに刻んで味噌と混ぜることに決めた。

 餃子は食べきれず、翌日の弁当用に分けた。

「冷めてもおいしい?」

「明日、廊下で感想を」

「放送は何時?」

「朝八時」

「起きてます」

 蓮司が帰ったあと、ゆらの部屋には焼けた皮と紫蘇の香りが残った。壁の向こうで、ラジオ用のキーボードを打つ小さな音がする。

 それは騒音ではなく、同じ夜を過ごす人の気配として、いつもより少し近く聞こえた。