真夜中の出席確認
午前零時、廃校の放送室で、影浦映司は誰も予約していない曲を聞いた。
校舎は十年前の火災以来、立入禁止になっている。解体前の警備を任された映司が電源を落としても、天井スピーカーだけが点き、チャイムを四拍へ刻んだイントロを流した。
「席について」
映司は当時、この学校の二年三組を担任していた。火災で亡くなったのは、足の悪い生徒一人。報告書には、避難後に彼女が忘れ物を取りに戻ったとある。映司は何度も同じ説明をし、遺族にも頭を下げてきた。
Aメロで、教室の机が一つずつ軋んだ。廃校なのに、座面が沈む音が出席番号順に鳴る。再生画面には三十九個の小さな四角。音が鳴るたび白くなり、その生徒の番号だけが黒いまま残った。
「席について」
二度目の声に、映司は亡くなった生徒の霊が教室へ戻りたがっているのだと思った。鍵を開け、二年三組へ入る。サビが始まると黒板に古いプロジェクターが点き、火災当日の教室映像を映した。
煙が廊下へ流れたとき、その生徒は最初に異臭へ気づき、立ち上がっていた。映司は避難訓練の妨害だと思い、座れと怒鳴った。警報が鳴っても「誤作動だから動くな」と繰り返した。その後、自分だけ職員室へ確認に出て、防火扉を閉めた。生徒たちは窓から隣棟へ逃げたが、足を怪我していたその生徒だけが遅れた。
映司は映像を止めようとした。操作卓には停止ボタンがない。机の白い四角は、生徒のスマートフォンへ送信済みを示していた。卒業した三十八人が、今夜同時に再生している。
最後の一音で、教壇の椅子がひとりでに引かれた。座面には、映司が改竄前に録音した報告音声の端末が置かれている。彼自身が「私の判断で待機させた」と話す声が、警察への通話回線へ流れた。
廊下に足音が近づく。解体業者ではない。捜査員たちだった。
スピーカーが、映司だけへ三度目を告げた。
「席について」
生徒に従順でいろと命じる教師の言葉ではない。今度こそ逃げず、罪を問われる側の席に座れという出席確認だった。