眠る四人目の一票
湊川千弦は、床に横たわる榎田壮の親指を持ち上げ、投票端末へ押し当てた。
〈四番席、投票受理〉
安西武尊が息を呑み、古庄夕実は椅子に縛られたまま目を見開く。壮は開始前から動かず、呼吸も浅い。三人とも遺体だと思っていた。
規則は一つ。
〈裏切り者が全参加者の過半数票を得た場合、その投票者を解放する〉
登録参加者は四人。過半数には三票が必要だ。千弦と夕実は、武尊が裏切り者だと突き止めていた。彼の袖に、黒い役職札の角が見えたからだ。
二人が武尊へ入れても二票。壮が死んでいるなら、三人中二票で過半数だと武尊は主張した。主催者も訂正しない。
しかし表示板の分母は、最後まで四のままだった。
千弦は壮の首筋へ指を当て、微かな脈を確かめた。死んでいるのではない。鎮静剤で眠らされているだけだ。主催者は「発言できない一人」を置き、三人が票数を奪い合う姿を期待した。
端末は本人の指紋さえあれば投票を受理する。意思確認をするとは規則にない。
『意識のない参加者による投票は無効です』
「無効なら、なぜ端末が受理したの?」
『本人の意思ではありません』
「規則は意思のある票を要求していない。裏切り者が票を得たかだけを見る」
武尊が壮の手を端末から引き離そうとする。夕実が鎖を張り、彼の足を止めた。千弦は候補欄の武尊を選び、もう一度壮の親指で確定する。
残り五秒。
〈武尊への票、三〉
〈全参加者四名の過半数を確認〉
鐘と同時に、千弦、夕実、そして眠る壮の首輪が外れた。正解票を投じた端末に対応する三人が解放対象だ。
武尊は叫ぶ。
「死人の票で負けるのか!」
千弦は壮の胸が上下しているのを示した。
「死んでいない。それに、あなたたちが人を物みたいに置いたから、物みたいに指だけ使われた」
出口から医療班が駆け込み、壮を担架へ乗せる。
千弦は最後に表示板を見た。
「数に入れた人間を、都合のいい時だけ無視することはできないよ」
四という分母が、主催者の沈黙より明確に光っていた。