砂時計の指揮官
ラゼフは戦闘中、砂時計ばかり見ていた。
魔術師が大術を使った時、盾役が防壁を張った時、治癒師が祈りを終えた時。小さな砂時計を返し、次に力が戻る瞬間を覚える。
敵へ触れない時刻係の貢献は3%。隊長オレスは、砂時計を子どもの玩具と笑った。
「強い技を惜しむから戦いが長引く。最初から全部使えばいい」
ラゼフは隊から外され、砂時計を地面へ置いた。
次の討伐で、オレスは号令と同時に全員の大技を放たせた。炎、雷、防壁、治癒の光が広間を埋め、甲虫王は地へ伏した。
歓声が上がった直後、甲虫王は脱皮した。
新しい殻で立ち上がった敵へ、誰も技を使えない。魔力は戻らず、防壁は消え、治癒の祈りも沈黙している。オレスは再び放てと命じたが、命令で力は戻らない。
依頼所へ砂時計を返しに来たラゼフは、広間の鐘が乱れて鳴るのを聞いた。救難の間隔だけで、仲間の技がすべて尽きたと分かった。
彼は割れた砂時計を拾い、残った砂を手のひらへ広げた。以前なら道具の目盛りを見ていたが、今は仲間の肩、杖の震え、祈りの余韻で分かる。長く時を測ったことで、ラゼフ自身が戦いの時計になっていた。
「盾はまだ。剣で引きつけて」
敵の脚が迫る。
「治癒が戻る。今は倒れたままで」
光が生まれる。
「火術が戻る。殻ではなく、脱皮した継ぎ目へ」
戦いは、力が強い順ではなく、戻った順に繋がった。剣士は待つことも攻撃なのだと知り、魔術師は力を残すことを臆病とは呼ばなくなった。ラゼフの指示は技を縛るものではない。誰の力も空振りにしないための約束だった。甲虫王が倒れた時、オレスは決着の攻撃だけを自分の功績にしようとした。
周期腕輪が戦闘の空白を表示する。これまで空白が生まれなかったのは、ラゼフが技を温存させ、戻る瞬間を重ねていたからだった。
彼は新しい砂時計を受け取らず、仲間の呼吸を見た。
「道具がなくても、今は分かります」
《戦闘周期貢献・真正算定》
申告値:3% → 真値:98%
働き順位:首位 ラゼフ
役割更新:時刻係 → 戦闘周期統括
旧隊長オレス:詠唱許可待ち