砂海を歩く泉亀
隊商は砂嵐の中で道を失った。
水袋は破れ、残った水は子ども一人分。案内役のサハルは地図を開いたが、目印の岩山まで砂に埋もれている。商人たちは荷を捨て始め、護衛隊長はラクダを一頭殺して血を飲もうと言った。幼い姉弟は空の水袋を舐め、御者は自分の取り分を二人へ譲ろうとしている。このままでは水より先に秩序が尽きる。
サハルは、案内役百日目にもらった確定SSR召喚石を握る。
必要なのは一杯の水ではない。全員を次の泉まで歩かせる、尽きない目印と水場。
石を砂へ落とすと、青い甲羅の小亀が現れた。
《旅泉亀》
乾いた土地でのみ歩き、足跡を飲める水へ変え、最も近い安全な水源へ向かう。
「この子の後ろを一列で」
笑う者もいた。だが小亀が一歩進むと、丸い足跡に透明な水が溜まった。サハルが掌ですくって飲む。冷たく、塩気も毒もない。
子どもへ先に飲ませ、次にラクダ。大人は一人三口と決めた。小亀は急がず、誰かが遅れれば立ち止まる。重い香辛料箱を捨てようとした商人には、甲羅で荷車を押し、命に必要な薬箱だけは砂へ沈ませなかった。足跡の水は飲み終えると砂へ戻り、奪い合う余りを残さない。
夜、砂嵐がさらに強まった。
小亀は甲羅を大きく広げ、隊商全員を風下へ入れる。青い甲羅には星図が浮かび、埋もれた道の代わりに進む方角を示した。
夜明け前には砂嵐が止み、亀の足跡が青い点となって地平線まで続いた。翌朝、甲羅の先に棗椰子が見えた。
失われたと思われていた古い泉だった。亀は迷わず、砂に埋もれた石組みの中央を前足で三度叩く。砂を掘ると水が湧き、隊商は水袋を満たす。護衛隊長は助けた礼に亀を買うと言ったが、サハルは首を振った。
「道具ではありません。帰りたい場所を選ぶ旅人です」
小亀は泉で一口だけ飲み、サハルの靴へ鼻先を当てる。そして自分から彼の進む次の街へ向きを変えた。
青い甲羅に金の輪が灯る。
《確定SSR〈旅泉亀〉――砂海横断生存率一〇〇%。召喚獣との相互同行契約、世界初成立》