砂漠の雨時計
砂都ハルバの貯水槽が底を見せた朝、領主は残った水を金貨一枚で売り始めた。
払えない下層民には一滴も渡さない。井戸掘り師エリカは、地下水脈が領主館の真下にあると報告したが、「館を壊す気か」と追放されていた。
日没までに水が届かなければ、施療所の子どもたちがもたない。
エリカに必要なのは宝石でも水袋でもない。砂漠の上空を通り過ぎる雲を、今ここへ呼ぶ時刻表だった。
焼けた測水棒に青い文字が浮かぶ。
《条件達成:水がない場所で千回、水の道を示した者》
《主人公専用排出枠〈水脈〉を解放》
《一度だけ、最寄りの水を到着させる道具を排出します》
引くと、針のない小さな日時計が現れた。
《雨時計》
《次にこの土地へ降る雨の時刻を、現在へ合わせる》
領主の役人が笑う。
「次の雨は三年後だ。時計を眺めて死ぬがいい」
エリカは日時計を乾いた地面へ置き、中央の棒を立てた。
影は未来へ伸び、三年分の季節を一息でなぞった。遠い海で生まれるはずだった雲が空を逆走し、山を越え、砂都の真上へ集まる。ただし彼女は街全体へ降らせなかった。水脈図に沿って、施療所、共同井戸、畑の貯水溝だけへ雨の筋を落とす。
太い雨音が屋根を叩く。乾いた井戸が底から満ち、子どもたちは桶へ顔を寄せた。畑の種は泥の中でふくらみ、家々の壺にも同じ高さまで清水がたまる。
領主館だけには一滴も降らない。
慌てた領主が貯水槽の鍵を閉めようとすると、雨水が石床の下へ染み込み、隠されていた地下水脈を押し上げた。館の大広間の床が割れ、私有化されていた泉が噴き出す。売り物にされた水瓶は浮かび、金貨と一緒に窓から市民の前へ流れ出た。
「止めろ、それは私の水だ!」
エリカは施療所の子に最初の一杯を渡す。
「水は、誰かの喉を選びません」
雨は必要な分だけ降り、井戸が満ちるとぴたりと止んだ。洪水も、家屋の損傷もない。雲の切れ間から、夕日が新品の銅貨のように差す。
針のなかった文字盤へ、七本の虹色の針が生まれた。
《天候級神器〈時雨招来盤〉》
《世界初降雨制御:給水対象一万二千人、被害零》
《専用観測者エリカ――次の雨を待つ必要なし》