祖母の指輪

宝飾店の修理カウンターに立って八日目、水城玲奈は、受け取った指輪を見た客から初めて責められた。

「こんな傷、預ける前にはありませんでした。祖母の形見なんです」

古い金の指輪の側面に、細い白い線が走っていた。玲奈が受付時に撮った写真は、天井の光が反射してぼやけ、傷があったかどうか判別できない。先輩は拡大鏡をのぞき、「洗浄でこの深さの傷はつかない。もともとでしょう」と言った。

理屈ではそうでも、証明できない。玲奈は受付時、「きれいになりますよ」とだけ言い、変化する可能性を説明していなかった。客は指輪ではなく、祖母との記憶を預けていた。

玲奈は傷の位置を顕微鏡で見た。線は爪の根元から真っ直ぐ伸び、途中で色が変わっている。表面の金色の下から、銀色の補修材がのぞいていた。超音波洗浄で汚れと古い透明塗膜が落ち、昔の修理跡が見えるようになったのだ。

「新しく傷をつけた可能性は低いです。ただ、洗うことで隠れていた跡が出る説明を、受付でしていませんでした」

先輩が口を挟んだ。「そこまで認めなくても」

玲奈は客に、顕微鏡画像を見せた。傷の両側に古い工具跡があることから、祖母の時代にサイズ直しをした継ぎ目らしいこと、削って消すと指輪が薄くなること、補修材の色を合わせて目立たなくする方法があることを説明する。選択肢ごとの費用と、残る跡も紙に書いた。

客はしばらく画像を見つめた。

「祖母も、直して使っていたんですね」

怒りは消えきらなかったが、声は少し柔らかくなった。客は、継ぎ目を完全に消さず、色だけ整える修理を選んだ。「祖母が使った証拠なら、線は残します」と言った。

閉店後、玲奈は店長の許可を取り、受付台に小さな撮影箱を置いた。四方向から写真を撮り、洗浄で現れる可能性のある古い補修を説明する欄を伝票へ足す。

翌朝、別の客が、母から譲られたネックレスを持ってきた。先輩が玲奈を奥へ下がらせようとする。

玲奈は撮影箱の灯りをつけ、客に尋ねた。

「まず、今ある傷も直した跡も、一緒に確認させてください」