神罰は返品しました

橘颯真の鑑定皿には、光が一粒も浮かばなかった。

「能力なし。神前に立つだけで祭壇が穢れる」

大神官がそう言い、颯真を召喚陣の端へ追いやった。

空には、儀式を見守る巨大な神の眼が開いている。勇者候補へ加護を与え、外れには罰を下すという。颯真が鑑定を終えた瞬間、その瞳が赤く染まった。

《不適格者を確認》

《神罰執行》

雲の中から、城より長い光の槍が降りてくる。

騎士たちは迷わず颯真から離れた。大神官は結界の内側へ入り、満足そうに杖を掲げる。召喚した人間を元の世界へ帰すのではなく、神罰で処分する。それがこの国の鑑定式らしい。

颯真の手元には、鑑定皿に映らない能力があった。

《返品》

自分へ一方的に送られたものを、一度だけ差出人へ返す。

宅配会社で働いていた颯真は、受取拒否の手順をよく知っている。

「差出人は、あの目でいいんですよね」

大神官が笑う。

「最期まで無知な男だ。神より届く裁きを、誰が拒める」

光の槍が天井を貫いた。

颯真は右手を上げ、穂先へ触れる直前に一度だけ告げた。

「受け取りません」

《返品》

槍が止まった。

穂先から柄へ、配送札のような白い帯が巻きつく。

《宛先不備》

《受取拒否》

《差出人へ返送》

次の瞬間、光の槍は真上へ飛んだ。

落下したときの何倍もの速さで雲を貫き、巨大な神の眼へ突き刺さる。空が白く反転し、雷鳴ではなく、遠い場所で机をひっくり返したような音がした。

神の眼が閉じる。

代わりに、翼の折れた天使が祭壇へ落ちてきた。両手には、金色の返送受領書が握られている。

《神罰、差出人へ配達完了》

《差出人の権能を担保として徴収》

《受取人:橘颯真に補償権限を付与》

大神官が杖を落とした。

天使はよろめきながら立ち、颯真の前で深く頭を下げる。玉座の王も立ち上がり、続いて神官と騎士が姿勢を正した。

颯真は返送受領書を受け取った。

先ほどまで彼を穢れと呼んだ者たちは、今や神より上位の苦情窓口を見るような顔で、彼の機嫌を窺っていた。