空の棺を焼く仕事

楪葉子は、使い終えた肉体を焼く仕事をしていた。

意識を若い予備肉体へ移したあと、古い体は医療廃棄物になる。だが家族が望めば、形だけの葬儀を行える。葉子の火葬場には、死亡していない人の棺が毎日届いた。

遺族は泣き方に困った。

「本人は今ごろ旅行中なんです」

「でも、この手は父の手でした」

若返った本人が、自分の古い葬儀へ参列することもあった。しわのない顔で棺を覗き、「ずいぶん老けていたな」と笑う。葉子は何も言わず炉の扉を閉めた。

五十歳の誕生日、会社から福利厚生の通知が来た。

葉子自身の予備肉体が完成したという。夫を早くに亡くし、子もいない彼女は、長生きする理由を考えたことがなかった。それでも同僚は、若返れば新しい人生が始まると勧めた。

見学に行くと、槽の中に二十二歳の自分が眠っていた。

だが管理AIが異常を告げた。

「夢見反応があります。廃棄または初期化を選択してください」

脳を空に保つ制御が弱く、予備肉体は断片的な夢を作っていた。葉子が提供した記憶写真を材料に、会ったことのない夫の顔まで夢見ているらしい。

葉子はガラスへ触れた。

若い自分の目尻から、涙が一筋こぼれた。

会社は、それは分泌反応だと説明した。

葉子はこれまで同じ説明を何百回も遺族へしてきた。死後の痙攣、残った体温、指の曲がり。意味はない。本人はもう別の体にいる。

それでも家族は、その「意味のないもの」に別れを告げた。

葉子は転送をやめ、予備肉体の人格登録を申請した。

若い女は半年後に目覚め、「葉月」と名乗った。葉子の記憶は持たず、ただ火を怖がり、知らない男の夢を見る。

二人は親子にも姉妹にもなれなかったが、月に一度食事をした。

葉子は火葬場の手順を変えた。

廃棄番号ではなく、古い体が生きた年数と、本人が希望する名前を棺へ記すようにした。

肉体が人ではないとしても、人だった時間まで空にはならない。

自分の若い顔と向き合ってから、葉子はようやく、焼いていたものの重さを知った。