空腹の飛竜は命令を聞かない

獣騎士ロムダルが料理人ハルヴェを追放した翌朝、飛竜部隊は一頭も空へ上がれなかった。

鞍を付けようとした瞬間、飛竜たちが牙を剥いたのだ。隊長竜は騎手を尾で払い、餌箱を踏み砕いた。

「腹を空かせているだけだ。肉を増やせ!」

兵は生肉を山ほど運んだ。しかし飛竜は匂いを嗅ぐだけで、ますます苛立った。やがて一頭が鎖を切り、厩舎の屋根を破った。

ハルヴェが毎朝作っていた餌は、肉を骨粉と苦葉で練った団子だった。見た目が悪く、ロムダルは「刻んで混ぜるだけ」と笑っていた。

飛竜は空を飛ぶ前、骨粉の鉱物で平衡感覚を整える。苦葉は繁殖期の興奮を抑える。肉だけを与えると、腹は満ちても空間感覚が乱れ、背に人を乗せることを恐れるのだ。

部隊は敵陣を空襲するはずだった。その最初の朝、騎手より先に飛竜から拒絶された。

ロムダルは服従の鞭を振るった。隊長竜は鞭を噛み砕き、長年組んだ騎手に背を向けた。力で従わせられないのは反抗ではなく、飛べない身体で空へ出る恐怖だった。ハルヴェだけが、餌を残す量と翼の震えから、その不調を毎朝読んでいた。

同じころハルヴェは、王都郊外の傷ついた魔獣を保護する園で、片翼の子竜へ団子を差し出していた。三日間何も食べなかった子竜が、一つ、二つと飲み込み、初めて喉を鳴らす。

園長は飼育記録を閉じた。

「餌付けではありませんね。恐怖と体調を、食べ方から読んでいる」

ハルヴェには〈魔獣栄養調教師〉の肩書と、餌の調達権が与えられた。剣を持たずとも、魔獣と人を結ぶ仕事だと認められた。

昼、ロムダルが壊れた鞍を抱えて現れた。

「団子を作りに戻れ。飛竜が飛べば、お前を補欠隊員にしてやる」

ハルヴェは子竜が差し出した鼻先を撫でた。

「私は補欠ではなく、ここの責任者です」

「国防を何だと思っている!」

「生き物を道具と思わないことから始めるべきでしょう」

彼は園の雇用章を示した。

「飛竜部隊との契約は、餌場から私の名札を外した時点で終了しています」