竜爪に強い仕立て屋
沙羅樹は王宮仕立室で、眠らずドレスを縫った。
紫の制服は袖が擦れ、腰には「至急直し」の札が何十枚も刺さっていた。貴族の裾が一寸短ければ呼び戻され、祝宴前には三日間、椅子から立てなかった。
退職後に開いた仕立て屋は、竜の保育園の隣にある。家賃が安かった理由は、子竜が毎日、壁や日除けへ爪を立てるからだ。
初日、赤い子竜が入口を半分壊した。沙羅樹が針箱を取りに行くと、店の柱から布のような木皮が伸び、裂け目を覆った。日除けも糸を吐き、穴を自分でかがった。
店には自動採寸する鏡と、定型服を縫う銀の針がある。客が布を選んで料金を入れれば、翌朝には服が受取箱へ収まる。売上は材料費を引いて、自動で沙羅樹へ届いた。
《定型服七着、納品。生活費九日分》
その表示の上に、王宮の緊急命令が現れた。
『戴冠式の礼装が裂けた。今夜中に修復せよ。復職を許可する』
「許可は要りません。戻りません」
『国王陛下の礼装だぞ』
「替えを用意していない仕立室の責任です」
『お前の腕なら一刻で済む』
沙羅樹は、針だこが薄くなった指を見た。
「一刻でも、私のものです」
通話を切ると、青い子竜が窓へ飛びつき、枠を外した。銀の針たちが窓布を縫うように木を寄せ、すぐ元へ戻す。子竜は褒められたと思い、尻尾を振った。
村の母親が、子どもの通学服を注文しに来た。鏡は仕上がりを五日後と示す。母親は「新学期は七日後だから、ちょうどいい」と代金を入れた。王宮なら、五日という表示を見た瞬間に三日へ縮めろと言われただろう。銀の針は一定の速さで動き、一本も焦らない。店の裾板を子竜がまた引っかいたが、木皮がゆっくり傷を覆う。急がなくても間に合う世界が、ちゃんと存在していた。
沙羅樹は店先に〈注文は鏡へ。店主は昼休み〉と掲げ、籠へパンと果物を詰めた。保育園の子竜たちと丘へ向かい、木陰に敷物を広げる。
王の裾ではなく、自分の昼寝用毛布を丁寧に掛け、彼女は針を持たない両手を枕にした。