竜玉に触れた最初の手
火竜討伐の帰還式で、荷運び役ルミナ・ディルの背嚢から、分配前の竜玉が転がり落ちた。
「盗人め!」
勇者団長ファルク・ゲインが、彼女の頬を張る。
「戦えないくせに報酬だけ欲しがったな。竜玉は王家へ納める品だ。おまえ一人の処刑で済むと思うな」
団員たちは目をそらした。ファルクが洞窟でルミナの背嚢を運んでやると言い、しばらく手元へ置いていたことを、誰も口にしない。
ファルクは竜玉を拾い、ギルドの押収書へ署名した。
「私は討伐後、一度もこれに触れていない。今初めて拾った。それが団長としての証言だ」
ルミナは倒れたまま、竜玉の台座を指した。
今回の依頼では、分配争いを防ぐため《接触記録の台座》が貸与されていた。希少素材へ最初に触れた五人の魔力を、順番に記録するものだ。ファルク自身が「荷運び役の盗みを防げる」と導入を要求した。
鑑定官が竜玉を台座へ戻す。
第一接触者、ファルク。
時刻は討伐直後。第二接触者もファルク。三度目は、ルミナの背嚢が置かれていた休憩時刻だった。
ルミナの名はない。
「台座が壊れている!」
ファルクが蹴ろうとすると、記録が音声へ切り替わった。
『これを女の荷へ入れろ。盗人を捕らえた英雄として、王から褒賞を上乗せさせる』
彼が副団長へ囁いた声だ。接触時の言葉まで残ると説明書にあったが、ファルクは読まずに署名だけしていた。
ルミナは立ち上がり、二度と運ばないと決めた勇者団の旗を床へ置く。
ギルド長が黒札を掲げた。
副団長は青ざめていたが、ルミナに罪を押しつける同意書へまだ署名していなかった。彼はついに、ファルクから命じられたと認め、背嚢をすり替えた場所を示した。そこからは王家へ納めるはずの鱗や角も見つかる。団長は一度の見栄のためではなく、何度も荷運び役を盗人にして報酬を抜いていたのだ。かつて追放された荷運び役たちの名も、押収品の札から次々に見つかった。
「ファルク・ゲイン。S級資格を永久剥奪し、王家財産窃盗と冤罪工作の罪で拘束する」