籾を載せた蓮葉

 ナム河砦の水門には、敵の鎖船が三艘張りついていた。

 城内の米は朝の粥で尽きた。鍋には水の線だけが残り、漕ぎ手たちは櫂の柄へ噛み跡をつけて空腹を散らしていた。雨季の水だけは壁の高さまであるが、水では槍を持てない。

 舟奉行のカーン・リエムは、籾を七粒、蓮の葉へ載せた。

「何をする」

 城主ファム・ザンが訊いた。

「援軍を見せます」

「七粒でか」

 リエムは答えず、葉を裏の細水路へ浮かべた。水滴を弾く葉の中央で、籾は沈まず小さな積荷のように揺れた。流れは砦の北から外へ出て、敵船の間を通る。

 次に十粒。次は二十粒。

 城に残る籾は、種として神棚へ供えていた一握りだけだった。それを全部、大小の蓮葉へ分ける。

 包囲軍の斥候は、流れてくる葉を拾う。一枚なら鳥の仕業、十枚なら船の荷こぼれと読む。リエムは葉の間隔まで、上流船の速さに合わせた。上流で米船が荷をこぼした、と考えるはずだった。

 夕刻、敵の水軍使・ソムチャイが交渉に来た。

「明朝までに降れば、水門の兵は助ける」

「上流を見張らなくてよいのか」

 リエムが訊くと、使者の目が動いた。

「何の話だ」

「河は物を隠せません」

 それ以上は言わなかった。

 ソムチャイが帰ると、鎖船の一艘が北へ移動した。やがて二艘目も続く。流れてきた籾を、援軍船の前触れだと読んだのだ。

 残った一艘だけでは鎖を張り切れない。

「米船など来ない」

 ファムが言った。

「来ません」

「敵が上流に何も見つけなければ戻る」

「半刻は戻りません」

「半刻で何ができる」

 リエムは水門下の渦を見た。

 敵の兵糧船は砦の南、葦原の陰に繋がれている。鎖船を北へ誘えば、その護衛も減る。城兵を救う米は、待つものではなく奪うものだった。

 腹を空かせた漕ぎ手三十人が、小舟へ乗った。櫂へ布を巻き、音を殺す。

 リエムは最後の蓮葉を拾った。籾は一粒も残っていない。

「戻れなければ」

 ファムが訊いた。

「敵の船で戻ります」

 北の河面で、敵船の松明が遠ざかった。

 リエムは蓮葉を水へ落とす。

 南水門の鎖が外され、緑の舟旗が上がった。