紙葉林の月末休刊日

紙代ナギの林では、月末になると木々が白い葉を落とす。

葉脈のない真四角の紙葉だ。風が百枚ずつ揃え、石の重しが一晩で平らにし、翌朝には書店組合の転送棚へ収まる。売上は領地の植林費とナギの生活費に分かれ、一本も木を切らずに次の月を待つ。

ナギは王宮記録院で写字係をしていた。

墨の染みた制服は右袖だけ擦り切れ、指には筆だこが硬く残っている。布告が出るたび徹夜で写し、誤字があれば最初から。退職しても記録院の通信紙は「写本三百部、至急」と机へ勝手に現れた。

初めての月末、紙葉がすべて出荷されたあと、林の石碑に一行浮かぶ。

〈白紙二千枚、月次販売完了。次の落葉まで作業不要〉

ナギは「白紙」という言葉を眺めた。何も書かれていない紙が、こんなに豊かに見えたことはない。

林は月末以外、紙を一枚も落とさない。空いた枝では鳥が巣を作り、雨の日は葉が水を受け、晴れれば地面へ影を落とす。記録院なら「生産していない木」と評価されたかもしれない。けれど紙葉を生むためには、書かれない二十九日が必要だった。ナギはその周期を領地帳で知り、白紙だけでなく空白の日にも用途があるのだと思えるようになった。林を歩く間だけは、何も写さず、何も残さなくてよかった。本当に。

案の定、元書記長から通信紙が飛んできた。

――明朝の布告を三百部。腕の立つ者がいない。戻れ。

ナギは裏面へ返事を書く。

――戻りません。

すぐに次の紙が現れた。

――一晩で月給の半分を払う。

ナギは笑い、一文字ずつゆっくり書いた。

――一晩は、月給の半分より長いです。

――国務を白紙にする気か。

――私の予定は白紙のままにします。

最後の返書を転送すると、机の魔法陣を閉じた。

林の出口に、出荷からこぼれた紙葉が一枚だけ落ちていた。ナギは拾い、何か書こうとしてやめる。白いまま二つに折り、栞にした。

通知を切り、読みかけの本を抱えて木陰へ向かう。今日は写す日ではなく、誰かの言葉をゆっくり読む日だった。