終電後の布団乾燥機
怜奈は予定を崩されるのが苦手だ。妹の南緒は、予定は崩れる前提で組むものだと言う。二人で暮らす部屋のカレンダーには、怜奈の細かい予定と、南緒の大きな丸印だけが同居していた。
金曜の夜、南緒から『泊めてもいい?』とメッセージが来た。終電を逃した同期の女性がいるらしい。怜奈は明日の朝、資格試験だった。即座に『無理』と打って、送信する前に止まった。
五分後、南緒は同期を連れて帰ってきた。怜奈は怒る準備をしていたが、玄関に立った女性が靴を脱ぐ手まで震えているのを見て、言葉を飲んだ。飲み会で上司に絡まれ、帰れなくなったという。詳しいことは誰も聞かなかった。
「リビングで寝てもらう」
南緒が言った。
「私、明日試験」
「知ってる」
「知ってて?」
「知ってるから、静かにする」
その返しが腹立たしかった。怜奈は自分の生活を守りたい。南緒は、守る範囲をその場で広げてしまう。どちらも間違いではないのが、いちばん面倒だった。
押し入れの布団は一組だけ湿っていた。雨の日に干せなかったからだ。怜奈は布団乾燥機を出した。南緒がシーツを広げる。二人は会話せず、ノズルを差し込み、タイマーを三十分にした。
待っている間、同期の女性はソファの端で眠ってしまった。南緒は床に座り、怜奈は参考書を開いたが、文字は入ってこなかった。
タイマーが鳴ると、二人で布団を敷いた。怜奈が枕カバーをつけ、南緒が毛布をかける。女性は小さく頭を下げた。
翌朝、怜奈は予定より十分早く家を出た。玄関には南緒の丸印のカレンダーと、自分の受験票がある。怜奈は南緒の靴をよけ、自分のパンプスを履いた。ドアを閉める前、布団乾燥機のコードを巻いておいた。南緒が起きてから片づけやすいように。
試験会場へ向かう電車で、怜奈は南緒からのメッセージを読んだ。『静かに起きた。ありがとう』。怜奈は『乾燥機、コード巻いた』とだけ返した。感謝にも怒りにも寄せない文面だった。それでも送信してから、参考書のしおりを一つ前のページに戻した。