結び直さないリボン

久我依音は、六花写真室へリボン綴じの台紙写真を持ってきた。幼い依音と姉が、同じ椅子へ窮屈そうに座っている。台紙を留める青いリボンは途中で切れ、片方だけが短く残っていた。

二年前、父の介護をめぐって姉と争った。遠方にいた姉へ、依音は「何もしなかった」と言った。姉は「任せてと言ったのはそっち」と返した。父を見送ったあとも、どちらも謝らないまま連絡が途絶えた。

先週、姉から結婚式の招待状が届いた。手書きの言葉はなく、出席か欠席に丸をつける葉書だけが入っていた。依音は欠席へ丸をつけたが、投函できずにいる。

店主は写真の表面を清掃し、切れたリボンを外した。引き出しから似た青を探したものの、同じ色はない。新しいリボンは少し灰色がかり、古い台紙にはよそよそしく見えた。

店主は一本を穴へ通し、両端をそろえた。蝶結びにする直前で手を止め、依音へ見せる。結べば台紙は閉じる。結ばなくても写真は落ちない。二本の端は、触れずに並んでいた。

「結んだほうが、きれいですよね」

店主は答えず、会計用の秤へ台紙を載せた。結ばない状態の重さを記し、包装紙を写真の幅に合わせて切る。リボンの端だけは包みの外へ出した。

依音は、子どものころの姉の膝を見た。自分が椅子を広く使い、姉は半分落ちかけている。それでも姉は依音の背中へ腕を回していた。だから姉が優しかった、依音が悪かった、という結論にはならない。あの介護の日々には、二人とも余裕がなかった。

「このままでお願いします」

店主は結び目を作らず、ほつれ止めだけを端へ塗った。会計のあとも、リボンは二本のままだった。

依音は店先の机で招待葉書を出した。欠席の丸を二重線で消し、出席へ丸をつける。余白には、謝罪より先にできることを書いた。

〈当日、早く行って受付を手伝える。必要なら連絡ください〉

姉が返事をするかは分からない。式で話せるとも限らない。依音は葉書をポストへ入れ、写真の包みから出た二本のリボンを、結ばないまま指に挟んだ。

ほどけたものを、急いで元の形に戻さなくてもよかった。