緑竜の尻尾に絡む棘

王宮の薔薇園を、緑竜の幼子が荒らしている。

そう訴えたのは庭園監督だった。確かに花壇は倒れ、赤い花弁が道へ散っている。貴族たちは東屋へ逃げ込み、衛兵に槍を持たせた。

下働きの庭師クオンは、幼竜の尻尾だけを見た。

花の名を百も暗記できず、監督から庭師失格と言われた彼にも、枝が風で折れたのか、何かに引かれて折れたのかは分かる。散った花はすべて同じ方向へ倒れていた。

太い尾へ棘蔓が何重にも絡み、動くたび別の薔薇株まで引き抜いている。幼竜が暴れて庭を壊すのではない。逃げようとして、庭全体を背負ってしまったのだ。

「切ります」

監督が顔色を変えた。

「希少種の紅后薔薇だぞ! 一枝でも傷つけたら、お前を追い出す!」

クオンは剪定鋏を開いた。

「では、追い出してください」

一番外側の蔓を切る。幼竜が振り向いて唸る。彼は目を伏せ、棘が皮膚へ押し込まれないよう、蔓を手で支えながら一本ずつ落とした。

手袋はすぐ破れ、クオンの指にも血がにじむ。幼竜が暴れるたび彼は鋏を止め、棘がさらに沈まない姿勢へ尾を戻してから続けた。それでも尾の傷より浅い。

最後に根元へ食い込んだ太い蔓を切ると、幼竜の尻尾が自由になった。引きずられていた薔薇株が、どさりと地面へ落ちる。

幼竜は逃げなかった。自由になった尾を一度だけ地面へ打ち、切られた蔓ではなくクオンの膝元へ戻した。

クオンが傷へ癒やし樹の樹液を塗る間、じっと尾を預けている。終わると、緑の鼻先で彼の傷ついた指を舐めた。淡い光が走り、切り傷が閉じる。

次の瞬間、荒れた花壇から新芽が一斉に伸びた。切った紅后薔薇も根を張り、以前より多くの蕾をつける。

監督は追放の言葉を飲み込んだ。

幼竜はクオンの腰へ尾を巻き、離さない。そのまま座り込むと、腹を見せて膝へ頭を押しつけた。

新葉のような鱗は日に温められ、尾の輪は重い毛布のように腰へかかった。クオンの腿に載る顎の確かな重みだけが、ここが彼の守る庭だと認めていた。