聖遺物の順番
大聖堂の門前で、巡礼団の奇跡は起きなかった。
高司祭モルガンが金の聖杯を掲げる。続いて白布、香炉、始祖の骨片。しかし祭壇は暗いまま、病人の額に浮かぶ呪印も消えない。
「祈りが足りぬ!」
百人の巡礼者が声を張り上げても、聖杯は冷たかった。
昨日、荷物持ちのエレムを「聖句一つ覚えられない俗物」と隊列から追放した。彼は経典を読めなかったが、聖遺物を運ぶ順序だけは決して間違えなかった。
最初に土を納めた箱、次に旅杖、最後に聖杯。それは始祖が歩いた道を荷の並びで再現する儀式だった。エレムは休憩のたび、使った順に箱を後ろへ回し、次の祭壇で最初に出す品を手前へ置いた。
新しい従者は価値の高い順に並べ直した。エレムが箱へ付けた結び目は貧相だと切り落とし、代わりに金の番号札を付けた。けれど経典を読む者ほど、始祖が何番目に何を持ったかを覚えていなかった。金の聖杯を一番上へ、土箱を一番下へ。見栄えはよくなったが、物語の始まりと終わりが逆になった。
「骨片を先に置け!」
「どれが始祖の物です?」
箱には似た聖人骨が十七。エレムだけが紐の結び目で見分けていた。
巡礼団最初の施療は、奇跡を待つ病人を残したまま中断された。高司祭の豪奢な馬車だけが門前に残り、病人たちは担架を引き返す。祈りの声より、車輪の軋みのほうが長く響いた。
一方エレムは、谷間の施療院で薬箱を運んでいた。
「朝の薬は一つ結び、夜は二つ。字が読めない患者にも分かります」
院長サナラは、盲目の老人が自分で正しい包みを選ぶのを見て頷いた。
「順番を守る力は、聖堂だけのものではないのですね」
エレムの棚で薬の取り違えはなくなり、治療師たちは一人多く患者を診られた。字を読めないことは欠点ではなく、誰にでも読める手順を作る理由になった。彼には《施療手順官》の役職と、薬庫の鍵が渡された。
夕刻、高司祭の白馬が谷へ駆け込む。従者が膝をつき、命令書を広げた。
「聖遺物を正しく並べるため、巡礼団へ戻れ。高司祭様は今回だけ、無知を許すと仰せだ」
エレムは朝薬の一つ結びを確かめ、命令書を畳んで返した。
「隊列から名を消された時点で、巡礼団との奉仕契約は終了しています」