花火の間だけ恋人
クラスメートに見つかった瞬間、彼女は僕の腕へ自分の腕を絡めた。
「恋人のふりして」
「何で」
「さっき告白を断った相手がいる」
参道の向こうに、同じ学年の男子がいた。彼女は気まずそうに顔を伏せた。
学校ではほとんど話さないのに、僕らは急に恋人役になった。彼女は赤い浴衣、僕は姉に選ばれた紺の甚平。見た目だけなら、それらしかった。
「手もつないだほうがいい?」
「演技に積極的すぎない?」
「ばれたら困るんだろ」
彼女は迷ってから、僕の手を握った。
告白した男子は僕らを見て、少し驚いた顔をした。それから何も言わず、友達のところへ戻った。
「もういい?」
「もう少し」
「どこまで」
「花火が始まるまで」
僕らは手をつないだまま屋台を歩いた。焼きそばを半分にし、射的で取った小さな鈴を彼女に渡した。
「恋人らしい」
「演技だから」
彼女は何度もそう言った。
河原に着くと、花火が始まった。
「始まったよ」
僕が手を離そうとすると、彼女は握り直した。
「終わるまでに変更」
大きな光が空に開く。横顔を見ると、彼女は花火ではなく、つないだ手を見ていた。
「断った理由、聞いていい?」
「好きな人が別にいるから」
胸が少し痛んだ。
「じゃあ、その人に見られたら困るんじゃない」
彼女は答えなかった。
花火の音に紛れて、何か言った。
「聞こえない」
「演技が下手って言った」
「どっちが」
「私」
終演の放送が流れた。それでも手は離れなかった。
「花火、終わったよ」
「アンコールがあるかも」
「ないだろ」
そのとき、本当に一発だけ遅れて花火が上がった。
彼女は笑った。
「ほら」
光が消え、空が暗く戻る。
今度こそ離れると思ったが、彼女は小さな鈴を鳴らした。
「好きな人、誰か聞かないの」
「聞いたら演技じゃなくなる」
「もう終わったよ」
僕は彼女を見た。
彼女は手をつないだまま言った。
「最初から、見せたかった相手は告白した人じゃない」
意味が分かるまで、鈴が二度鳴った。
「僕?」
「演技、続ける?」
僕は首を振った。
「本番にする」
帰り道、僕らは恋人のふりをやめた。
けれど、やっていることはほとんど変わらなかった。