荷物持ちの帰還札は三枚ある
荷運び人ロアンは、勇者隊の聖杯を谷へ落とした。
崩れる吊り橋で仲間の荷を守ろうとした拍子に、箱の留め金が外れたのだ。聖杯は霧の底へ消え、隊長は町へ戻るなりロアンの帰還札を破った。
「荷物一つ守れない者に、背中は任せられない」
宿の厩で空の背負い籠を片づけていると、三人の冒険者が訪れた。
剣士ブリサは、自分の鞘を外してロアンの背負い籠へ結んだ。
「次の迷宮では剣を預ける。荷の順番を決めるのもあんただ」
魔導師フローラは、宿の食堂で隣の椅子に置かれた杖をどけた。
「探索班の席を一つ空けてあるわ。戦えなくても、あなたの経路記憶が要る」
行商人ドメニコは、町門の荷馬車に新しい背負い籠を積み、馬へ餌を与え続けていた。
「冒険をやめるなら商隊へおいで。返事が出るまで出発しない」
三つの勧誘を受けた直後、宿の主人が谷から回収された箱を運んできた。中にはひびの入った聖杯がある。
三人がロアンを欲しがった理由は、重い荷を持てるからだけではない。薬を利き手側へ、食料を濡れない内側へ、仲間の私物を勝手に開けない区画へ収める細かな癖を、別々の遠征で見ていた。
ロアンはせめて修理できないかと持ち上げたが、手を滑らせた。杯が床へ落ち、二つに割れる。
音を聞いた三人が立ち上がる。
今度こそ呆れられた。ロアンは破片から手を離した。
「誘いは全部なかったことにしてください。僕は預かったものを、また壊す」
ブリサは鞘を取りに来た。そう思ったが、彼女は鞘の金具で杯の底を叩いた。
偽物らしい鈍い音がする。
フローラが破断面へ光を当て、ドメニコが箱の送り状を調べた。
「これは錫よ。聖杯じゃない」とフローラ。
「隊長が保険金を取るため、帰還後にすり替えた品だ」とドメニコ。
ブリサは鞘を籠へ結び直す。
「谷で落とした箱は、橋の反対側へ投げて仲間を軽くした。あんたは荷より人を守ったんだろ」
三人は宿を去らず、偽杯を証拠として組合へ運ぶ準備を始めた。
籠には剣の鞘、食堂には空席、門には止まった荷馬車。破られた一枚の帰還札の代わりに、ロアンの名を書いた札が三枚、朝まで揺れていた。