落とし物の王冠
「落とし物は籠へお願いします」
遺物回収ギルドの受付係ソレーヌは、持ち込まれた品を三つに分ける。
所有者あり、所有者不明、触れてはいけないもの。
錆びた指輪も、呪われた人形も、元王家の宝剣も、彼女は同じ灰色の手袋でつまみ、同じ柳籠へ入れた。冒険者たちは、その小柄な娘が古代遺跡を一つも知らないと思っている。
没落貴族の少女アネッサは、亡父の遺品を探しに毎日受付へ通っていた。
雨の午後、金の王冠をかぶった男が入ってきた。
いや、男が王冠をかぶっているのではない。王冠から伸びた黒い糸が肉体を操っていた。
失われた帝国の怨霊《無冠帝》。
拾った者を器にし、かつての臣民を皆殺しにした呪物である。
「我が国を返せ。さもなくば、この街を新たな墓標とする」
王冠から闇が広がり、広間の人々は膝をつく。
アネッサだけは柳籠を探して受付台の裏へ回っていたため、ソレーヌが手袋を外すところを見た。
彼女は王冠へ片手を差し出した。
「あなたの国は、落とし物ではありません。もう終わったのです」
黒い糸が襲いかかる。
ソレーヌは二本の指でそれをつまみ、するりと引いた。男の身体から怨霊だけが抜け、古びた旗、崩れた城、百万の未練をまとった巨大な王の姿になる。
だが彼女が柳籠の蓋を開けると、無冠帝は木の実ほどに縮んだ。
王も城も怨嗟も、籠の底へころんと落ちる。
「最初の遺物回収者……貴様が創設者か」
怨霊の声が消える。
籠の縁には、遺物回収ギルド設立以前の銘があった。
《失われたものを眠らせる者・ソレーヌ》
彼女は王冠を布で包み、封印棚の最下段へ置いた。操られていた男の記憶から呪いを抜き、床の黒い跡を手袋で拭う。皆が顔を上げたときには、貧血で倒れた旅人が介抱されているだけだった。
アネッサの足元へ、小さな銀の留め具が転がる。
亡父の外套についていた品だ。ソレーヌは何も言わず、少女の掌へ載せた。
秘密と探し物を同時に受け取ったアネッサは、深くうなずく。
翌朝、冒険者が怪しく光る指輪を机へ置こうとする。
ソレーヌは柳籠を指した。
「落とし物は籠へお願いします」