葬花店の白紙領収書

葬花店《眠り蔓》へ、司祭ベネディクトは白百合の花籠を突き返した。

「こんな貧相な花に金は払えない。寄付として処理しろ」

 店員モナが確認すると、花は一本も傷んでいない。宛名は、昨日まで司祭の不正を調べていた若い助祭だった。

「まだご存命の方への弔花で間違いありませんか」

「余計なことを聞くな。受け取れば自分の立場が分かる」

 司祭は花籠の札へ〈次は本物の葬儀になる〉と書き足した。

「届けた後、領収書は白紙で寄こせ。金額は教会会計へ好きに書く」

「ご注文内容の確認署名をお願いします」

 モナは注文票を差し出す。

 ベネディクトは〈弔花一式、代金支払済み、受取人本人への手渡しを命ず〉と署名し、司祭印を押した。

「これで満足か。店主には、教会の免税を取り消されたくなければ黙れと伝えろ」

 モナは白紙の領収書を一枚、卓上の記録器へ通した。

 紙面に、消えていた文字が浮かぶ。

『司祭ベネディクト、教会費から十万金貨を支出と記帳。実支払額、零』

 白紙領収書には不正追記を防ぐ透かしがあり、注文端末と照合すると、記入予定の会計番号まで表示される。

「店が会計を盗み見たのか!」

「番号は司祭様が先ほど、通信で会計係へ読み上げました」

 店内の注文記録は、脅迫防止のため署名開始から終了まで音声を保存する。花札の言葉も、免税取消の脅しも、すべて司祭印と結びついていた。

 ベネディクトは花札を破ろうとしたが、モナは止めない。文字は既に記録器へ転送済みだ。

 破れた白百合をモナが拾うと、店内に甘い香りが戻った。脅しに使われた花であっても、花まで罪を負う必要はない。

「私は大聖堂の司祭だ。誰が私を裁く?」

「ご注文の受取人です」

 奥の扉から若い助祭と教会監察官が出てきた。助祭は生きており、監察官の保護下で帳簿を確認していた。

 司祭の唇が震える。

「これは信仰上の比喩だ」

 監察官は司祭印付き注文票を受け取り、白紙領収書を重ねた。

 そして花籠の前で教会令を読み上げた。

「ベネディクトの聖職位剥奪、および横領・脅迫容疑による逮捕命令を執行する」