蒸籠ひとつの領主
料理人イスカは、晩餐会の余りを使用人へ食べさせた罪で宮廷厨房を追われた。
代わりに与えられた辺境の土地には、湯気を噴く温泉と、肩書だけの領主権がついていた。
館も畑もない。だが源泉脇には、折れた竹が群生している。
「領主の最初の仕事は、領民一号を満腹にすること」
領民一号とは自分のことだ。
イスカは竹を切り、細く割って編み始めた。
宮廷では皿の高さまで身分で決まり、厨房の者は味見の一口すら許可を要した。ここには格式を決める役人はいない。湯気は上へ昇り、空腹は誰の腹でも同じように鳴る。イスカは竹片の幅をそろえ、蒸気が団子へ均等に当たるよう、中央から放射状に編んだ。作るのは蒸籠ひとつ。底を格子にし、縁を蔓で締める。源泉の湯気が抜けすぎないよう、蓋は葉を二重に重ねた。
昼過ぎ、丸い蒸籠が完成した。持ち上げても歪まず、蓋は縁へきれいに収まった。湯気を一度通すと、乾いていた竹が鮮やかな緑の香りを放つ。イスカはその匂いを吸い込み、厨房では得られなかった空腹まで楽しんだ。
旅袋の小麦粉に山菜と刻んだ干し肉を混ぜ、小さな団子へ丸める。源泉の上に石を組み、蒸籠を置いた。
しゅう、しゅう。
湯気が竹の青い香りを引き出す。蓋を開けると、ふっくらした団子が並び、肉汁と山菜の匂いが空腹を直撃した。
ちょうど境界杭を確認しに来た測量人が、腹を鳴らした。
「一つどうぞ」
「領主様の初日の食事を?」
「領主だから分けるんです」
二人が熱い団子を手で割ったところへ、宮廷から豪華な馬車が到着した。
「国王陛下の晩餐が混乱しております。総料理長として復帰を」
使者は金文字の辞令を差し出す。
イスカは受け取ったが、蒸籠の蓋の下へ置いた。重しにちょうどよい。
「それは湿りますよ!」
「では、食べ終わるまで持っていてください」
彼女は二つ目の団子を測量人の皿へ載せた。
王の皿より先に、目の前の空腹を満たす。誰にも叱られず、それを決められる。
温泉の湯気の向こうで、辺境領最初の食卓には、空の皿が二枚並んだ。