薔薇を撤去した園遊会
王宮の園遊会は、赤い薔薇で埋め尽くされていた。
マレーネにとって薔薇は、妹の葬儀を満たした花だ。甘い香りを吸うたび、白い棺の蓋が浮かぶ。
ラザール公爵は彼女が入口で三度息を止めたことに気づいた。
「薔薇を移せ」
庭園長が目を見開く。
「今季の象徴花でございます」
「別の庭へ根ごと運べ。切るな」
花を傷つけることまでマレーネが嫌うと知っているため、公爵は魔法使いに鉢と株をそのまま移動させた。代わりに植えられたのは、彼女が好きな青い矢車菊だった。
「一度、道端で褒めただけなのに」
「おまえが立ち止まった」
政敵の領地を躊躇なく没収する公爵が、そんな小さな立ち止まりだけは忘れない。
午後、王妃が花冠を持って現れた。
「今季の『公爵の薔薇』として、マレーネ嬢を社交界へ披露しましょう」
花冠には、撤去されたはずの赤薔薇が編まれていた。
マレーネは後ろへ下がる。
「被りません。その呼び名も嫌です」
王妃は優しく諭す。
「公爵に最も愛される女性という意味ですよ」
「私は誰かの花ではありません」
周囲がざわめく。ラザールに選ばれることを夢見る令嬢たちから、贅沢な拒絶だという声が漏れた。
公爵は花冠を受け取った。
「温室へ戻せ」
「披露を取りやめるのですか」
「本人が望んでいない」
王妃は公爵の立場を持ち出した。
「特別な女性には、特別な役目が伴います」
ラザールはマレーネへ尋ねる。
「何と紹介されたい」
「王立植物園の記録官として」
「そうしろ」
司会者が肩書きを読み直す。公爵は矢車菊を一輪摘むことさえせず、咲いている場所を彼女と眺めた。
「マレーネを薔薇と呼ぶな。私の愛情は、彼女の名前や職を上書きする称号ではない」
ラザールは庭全体を変えたあとも、満足を押しつけなかった。
「矢車菊も多すぎるなら減らす」
「いいえ。これは好きです。ただ、私の冠にはしないで」
「分かった」
好きなものを好きだと言ったことまで、所有の印へ変えない。その区別を、公爵は王妃の前で守った。
マレーネは、薔薇そのものを憎んでいるわけではないとも告げた。
「別の庭で楽しむ方まで、見られなくしないでください」
ラザールは移植先を一般公開の温室に定めた。彼女の傷を、他人を従わせる口実にはしなかった。
赤い花冠が消えた園で、青い花だけが風に揺れた。