街を片づける眠り口
落合カナデは王都清掃局で、街が眠るあいだに街の失敗を拾っていた。
橙色の制服は膝も肘も擦り切れ、反射帯には馬車の泥がこびりついていた。祭りの翌朝は二日分働き、冬は凍った廃棄物を素手で剥がす。退職した後も未読の緊急連絡が増えた。「収集車故障」「広場が満杯」「市民から苦情」。市民の眠りを守るため、カナデの眠りは数に入れられなかった。
丘の上の古家で開いた無限収納は、入れた物を素材ごとに分けた。紙、硝子、金属、布、まだ使える家具。腐る物だけは土へ戻る肥料になり、害も臭いも外へ出ない。
カナデは町々に小さな回収口を置いた。自治体から処理料が入り、分別された素材が工房へ売れると代金の一部が自動で振り込まれる。修理できる品は無料棚へ送った。彼女が夜明け前に馬車を引かなくても、街は少しずつ片づいていった。
ある昼、庭で拾った椅子を磨いていると、腕章型の端末が鳴る。
《自動処理料・再資源売却益:入金》
《今月の必要額を確保。回収口を一時閉鎖できます》
閉鎖できる。それでも街が終わらない。以前のカナデには、想像もできない仕組みだった。
無料棚からは、脚を直した机を若い夫婦が持ち帰った。捨てられた揺り木馬は塗り直され、子どもの笑い声を乗せている。回収量を競うより、もう拾わなくてよい物が増えるほうが嬉しかった。回収口は満杯にならず、苦情票も彼女の枕元へ来ない。静かな仕組みほど、街にはよく働いた。
そこへ元局長から映像が届く。
「建国祭の翌朝だ。人が足りない。臨時班長として戻れ」
「回収口の増設契約なら受けます」
「現場へ来いと言っている。皆、徹夜するんだぞ」
「皆が徹夜しなくて済む方法を、今お渡ししました」
局長は「楽を覚えたな」と吐き捨てた。
カナデは擦り切れた制服を見下ろし、静かに答えた。
「はい。覚えるのが遅すぎました」
通信を切り、腕章を無限収納の通知遮断区画へしまう。磨き終えた椅子を木陰へ置き、靴を脱いだ。柔らかな草を足裏で確かめながら、彼女は目的地のない散歩へ出た。