見届ける幽霊
黒檀カイルの喉へ、PK《寂寥のラウ》の大鎌が迫った。
《目撃保護》
致命攻撃を一人以上の観戦者が視認した場合、被害者のHPは一で止まります。
観戦者は生死を問いません。
地下墓地には二人きり。ラウは目撃者を先に殺し、観戦窓も閉じたと豪語する。
「誰も見ていない。だからお前は死ぬ」
カイルは逃げず、中央広間へ歩いた。壁には無数の曇った鏡。ラウが殺したプレイヤーの死亡地点だ。
「墓石に期待するな。死者は証言しない」
大鎌が振り下ろされる。
カイルのHPは一で止まった。
ラウの目が見開く。
鏡が一枚ずつ明るくなり、中に観戦者の顔が浮かぶ。殺された者たちはログアウトできず、死亡地点から戦場を見続けていた。声も身体もないため、ラウは消えたと思っていた。
《観戦者数:百四十二》
致命攻撃後、ラウには三秒の硬直が入る。カイルはその間に鎌の柄を踏み、拘束札を貼った。
「卑怯だ。死者を盾にした」
「盾じゃない。証人だ」
鏡の中で、過去の被害者たちが同時に告発ボタンを押す。ラウのPK履歴が一件ずつ開示される。
彼は「誰も見ていない場所」で殺すことへ執着していた。だが死亡した被害者自身が、最後まで最も近い観戦者として残っていた。
《致命攻撃を無効化》
《目撃者:死亡観戦者百四十二名》
拘束後、鏡の観戦者たちは一人ずつ実体化を始めた。告発が受理されるたび、死亡地点へ固定されていた意識が解放される。
百四十二人全員が戻るわけではない。古い者ほど輪郭が薄く、声だけを残して消える。
カイルはその声を記録する。
ラウは「見られているなら、なぜ今まで誰も止めなかった」と叫ぶ。
観戦者には手も武器もなかった。できたのは見ることだけだ。それでも、目撃保護が一度発動するには十分だった。
最後の一人が消える前に言う。
「見るだけでも、次の一人を一で止められる」
死者の視線は復讐の刃ではなく、同じ死を完全には繰り返させないための最後の抵抗だった。
《孤立判定を撤回――寂寥のラウが一人にしたのは被害者ではなく、百四十二人に見届けられていた自分自身です》