詠唱がぶつかった決勝戦

王立魔法学院の代表班で、支援魔術師サイラだけは攻撃術を持たなかった。

彼女は仲間の呼吸へ拍を刻み、同時詠唱が互いの魔力を邪魔しないよう、発動を一瞬ずつずらしていた。

班長ベリオスは決勝戦の朝、彼女を名簿から外した。

「今年の競技規則では四人までだ。威力のない拍子取りより、雷撃手を入れる」

サイラは代表腕章を返し、観客席へ移った。

開始の鐘が鳴った。

ベリオスが炎槍、二人目が風刃、新加入の雷撃手が雷網を唱える。三つの術式はどれも完璧だった。

だからこそ、同じ瞬間に完成した。

炎へ風が入り、雷がそれを包む。三つの魔力は標的へ向かわず、術者たちの中央で白い球になった。審判が防壁を張るより早く爆ぜ、代表班は自分たちの爆風で場外へ転がった。

試合時間、七秒。

観客席は静まり返った。

相手班は一歩も動いていなかった。勝者宣言を受けた彼らの代表が、倒れたベリオスへ手を差し出す。「強すぎる術は、こちらまで届かないことがあるんですね」と悪気なく言い、会場に遅れて笑いが起きた。学院代表班の連勝記録は、自爆という一行で終わった。

教官が焦げた競技床を見下ろす。

「去年まで連携が成功したのは、息が合っていたからではない。サイラが千分の一拍ずつ発動をずらし、前の術が通る道を次の術へ渡していたのだ」

同じころ、学院地下の魔導研究室では、暴走続きだった四属性炉が初めて安定していた。

サイラが魔力の注入順を刻むと、炉の色が濁らず透明に変わる。教授ユクタは記録紙を掲げた。

「十年間、出力不足だと思っていた。必要だったのは力ではなく順番だった」

四属性炉から得られた透明結晶は、これまでの最高純度を更新した。教授たちは論文の著者欄の先頭へサイラの名を置き、次の実験では彼女が開始鐘を鳴らすまで誰も魔力を入れないと決めた。

彼女には研究補佐ではなく、術式同期主任の席が与えられた。

夕方、包帯を巻いたベリオスが研究室へ現れた。

「再試合が認められた。今度は五人枠を申請する。代表に戻れ」

サイラは安定した炉へ最後の拍を入れた。

「学院代表班との支援契約は、名簿から外された時点で終了しています」