豆腐田楽の串

切りすぎた前髪のことを、店長には報告した。客本人には、先輩が謝った。

美容師の見習いになって一年。モデルカットで、確認せずに一度はさみを入れた。修正はできたが、希望より短くなった。先輩は「次から気をつけろ」と言い、モデルは「大丈夫です」と笑った。その笑顔が、怒られるよりつらかった。床に落ちた髪は掃けば消えるのに、鏡の中の短さは残る。僕は閉店後の練習用ウィッグを見ても、はさみを持てずにいた。

帰りに入った居酒屋では、帽子をかぶった常連が一人いた。僕が席へ着くと、その人は帽子を取り、壁の釘へ掛けた。短い髪の脇に、古い手術痕が一本見えた。視線に気づいたのか、男は帽子を戻さず、湯呑みへ手を伸ばした。

豆腐田楽を頼む。串に刺した豆腐が焼かれ、味噌がふつふつと音を立てた。焦げた味噌の甘い匂いと、木の芽の青い香りが立つ。表面は熱く締まり、噛むと中の豆腐は白く柔らかかった。

串から外そうとして、豆腐を崩した。店主が新しい皿を寄せながら言った。

「串は、食べてから抜くほうが楽」

最初からきれいに外そうとする必要はないらしい。串を支えにして食べると、豆腐は崩れず、最後に細い木だけが残った。

僕はモデルへ直接謝っていない。先輩の言葉を支えにしたまま、自分の責任だけを抜こうとしていた。

明日、店長に連絡先を確認し、モデルへ自分から謝る。直せる範囲で前髪の調整を無料で提案し、次回は先輩同席で担当させてもらえないか頼む。断られるかもしれないし、もう来店しないかもしれない。自分が謝ればモデルの気分が軽くなる、と決めつけるつもりもない。髪はすぐには戻らない。その事実は消せない。だから、謝る相手の都合を先に聞く。

奥の常連は帰る前、帽子をかぶり直した。傷を隠したというより、外へ出る準備をしただけに見えた。

最後の豆腐は串の根元に少し残った。味噌は冷めかけても甘く、中心にはまだ淡い熱があった。舌でその柔らかさを確かめてから、僕は空になった串を皿へ置いた。