贈り物係を降りる

 都は、母の誕生日までの日数をカレンダーで数えた。あと九日だった。

 姉と弟とのグループチャットには、夕方に送ったメッセージが残っている。

〈今年のプレゼント、何か候補ある? 私、日曜なら買いに行けるよ〉

 二十一時半になっても、既読はゼロだった。

 毎年、都が候補を探し、二人に金額を伝え、包装して実家へ送る。姉はあとで送金し、弟は誕生日当日に「ありがとう」と母へ電話する。誰も都に頼んだわけではない。最初の年に、たまたま時間があった。それがいつの間にか、都の担当になった。

 ノートパソコンには、ストール、花、菓子のページが十以上開いていた。母は「何もいらない」と言うし、去年の財布も大事に箱へしまったままだ。喜ばせたいのに、正解を探すほど、選ぶ作業が試験のようになる。

 夕飯の焼き魚弁当は、蓋を開けたまま冷えていた。レシートには、弁当のほかに母が好きな紅茶のティーバッグが一箱ある。候補を考えるために味見しようと買ったものだった。

 都は湯を沸かし、マグカップへ一袋入れた。蒸らし時間を待つ間にチャットを開く。既読ゼロの下で、「私、日曜なら買いに行けるよ」だけが、手を挙げたまま取り残されていた。

〈返事なかったら私が適当に決めるね〉

 そう続ければ、いつもの形に戻る。

 都は入力欄から指を離した。

 姉にも弟にも、それぞれの夜がある。だから返信が遅い。それと同じように、都にも弁当を食べ、紅茶を飲む夜がある。九日あるのに、今夜ひとりで結論を出す必要はない。

 開いていた商品ページをすべて閉じた。最後のタブが消えると、デスクトップの海の写真が現れた。去年の夏、自分一人で行った場所だった。

 チャットへ新しく送る代わりに、カレンダーの日曜から「買い物」の予定を消す。候補が届いたら考える。届かなければ、そのとき三人で困ればいい。

 紅茶は少し渋くなっていた。都は冷えた焼き魚を一口食べ、温かい紅茶で流した。今夜だけ贈り物係を降りても、母を大切にしていないことにはならなかった。